BMWニューM5登場
BMWから第7世代となる新型「M5」が発表されました。2024年7月11日〜14日に英国で開催される「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」でワールドプレミアされます。長いプレスリリースを要約するのは多くの翻訳記事に任せながら、ここではいささか趣を変えて古い話からお付き合いいただきましょう。
5シリーズはBMWの屋台骨を立て直した立役車
BMWにとって「5シリーズ」とは、何度もぐらついた屋台骨を立て直した立役車だ。その元祖には1962年に発表された実用性の高いセダン「1500」というモデルが存在し、ドイツ語では1500という数字を5(フュンフ)と1000(アインタウゼント)で「アインタウゼント フュンフ フンダート」という発音をし、組織内部ではその頭のキーワードとなるフュンフ、つまり5シリーズと呼ばれた。
その後3Lエンジンを搭載したセダンは5シリーズよりも大きい「7シリーズ」となり、3Lエンジン搭載のクーペは「6シリーズ」に。そしてプリンス「スカイライン」がそのパッケージングを寸分たがわずコピーし、エンジンを傾斜させて搭載する方法も真似たといわれる「02」シリーズは「2000」の2ドアセダンとして、5シリーズよりも小さい「3シリーズ」となった。
その出自からして5シリーズは常に実用性の高いセダンであり、ラグジュアリーセダンの7シリーズとも異なり、大型クーペの6シリーズでもない。コンパクトな3シリーズとも違うポジションは、幅広い保守的な層に向けて「実用的でブランドらしい」モデルという命題を持っていた。
M3の始祖は5シリーズだった?
これはメルセデス・ベンツ「Eクラス」とも同じ事情で、多くの層に受け入れられながら利益を確保するという役目があり、ブランドの主張は抑えなくてはならない宿命を持っていた。話は変わるが、「M」というバージョンは今やほとんどのシリーズに揃えられ、ハイクラスパフォーマンスカーとして知られている。
特に「M3」は世界でも有名だが、乗用車としてのMの始祖は5シリーズだったという過去がある。ドイツのメディア界隈では都市伝説として、こんな話がある。
一時期ドイツの大手銀行や大企業のトップがテロの対象となり、その通勤や移動手段としてのクルマが狙われたことがある。BMWがその対策としたのが、トップの移動にはラグジュアリーでも重くて運動性に劣る7シリーズではなく、暴漢の追尾を振り払うために実用性を備えた5シリーズをベースに操作性の優れたモデルを開発したというのだ。常に3台の同じ車両が連なりトップが通勤に用い、その3台のどれに乗るかはランダムにしてリスクを避けたという。
……というわけで、主にこの足まわりをチューニングして操作性を向上させ、精密なバランスをとって組みあげられたエンジンを持ったのがMプロダクト初の「M535」であったというわけだ。M3がグループAのレギュレーションをクリアするために生まれた話は誰もが知るところだが、当時M社はFIAフォーミュラ2選手権やグラチャンシリーズのエンジンを供給しており、そのエンジンは基本的にM3とブロックを共有していた。
しかしそれだけではM社のビジネスとしては当然成り立つわけもなく、重役モデルの開発に商機を見出し、ライン生産のオプションとしてMスポーツを提供。世界的にも大好評となったM3の生産に活路を見出したという実績もある。初代M5はゼロからの開発を許されなかった当時、すでに終焉に近かった鋳鉄ブロックの直列6気筒をチューニングし、あくまで実用性を重視した5シリーズの枠を出ないハイクラスパフォーマンスカーとして登場した。
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