大阪から千葉、そしてイギリスからカナダへと渡り歩いたF40
スパルタンかつストイックであることを身上としたフェラーリF40ながら、安全性と排ガス規制への懸念から、その生産期間中には複数の変更が加えられていた。なかでも重要だったのは、革新的だがときに厄介なセルフレベリング・サスペンションシステムをオプションで追加し、ドライバーが車高を調整できるようにしたこと。そしてもうひとつは、環境規制の強化に対応するための触媒コンバーターの追加だった。
しかし現在においては、アジャスタブル・サスペンションと触媒コンバーターを装備していないF40は、「ノン・キャット、ノン・アジャスト(non-cat, non-adjust)」と呼ばれ、その優れたハンドリングと制限の少ないエンジンが、エンスージアストの間では好ましいものと評価されている。
このほど2024年5月31日〜6月1日に開催された「The Dare to Dream Collection」オークションに出品されたF40も、そんな「ノン・キャット、ノン・アジャスト」の1台。保存状態は極めて良好で、オークション公式カタログ作成時点の走行距離はわずか1606kmに過ぎない。
この個体は1990年3月1日に生産を完了し、現在のように「ロッソ・コルサ」のボディカラーと同じく赤い「ストッファ・ヴィゴーニャ(ヴィゴーニャ生地)」で仕上げられ、同月にファクトリーから直接販売された。
元オーナーがまとめた履歴によると、その3カ月後にヨーロッパから日本へと輸出され、1990年6月11日に大阪のコレクターによって初めて登録された。
2004年、F40は千葉県に住む別のオーナーの手に渡り、2010年に3人目、そして最後の日本人オーナーの手に渡るまで5年間保管された。このオーナーは、2015年時点の走行距離が1150kmだったと述べている。
同じ年、イギリス・ハートフォードシャーにあるフェラーリ・スペシャリストとして有名な「DKエンジニアリング」がF40を入手し、イギリスに輸入させた。同社の創設者兼取締役からの書簡によれば、同社がこれまで扱ってきた140台以上のF40のうち、シャシーナンバー「84169」は、過去5年間でもっとも走行距離の少ない個体のひとつだったという。
DKエンジニアリングの管理下において、このシャシーナンバー「84169」はカムベルトや燃料タンク、リアのアッパー・ウィッシュボーンブッシュ、ホイールロック・クリップ、フルードの交換、サスペンションの分解修理とダンパー類のオーバーホール、カムカバーの取り外しと再シュリンク塗装、バルブクリアランスのチェック、ファイヤーシステムの取り付けが行われた。
この作業が完了すると、DKエンジニアリングは「フェラーリ・クラシケ」の検査を依頼。その「レッドブック」は2016年2月9日に発行され、「84169」がナンバーズ・マッチのシャシー、エンジン、ギアボックスを備えた素晴らしいコンディションであることが確認された。
純正ポーチに入ったマニュアルと工具も完全な状態で保管
2015年末に「The Dare to Dream Collection」に譲渡されて以来、このF40はほとんど走行に供されることはなかったものの、2020年にはウォーターポンプ交換とターボユニットのリビルト、2023年にはエアコンシステムの整備とガスのリチャージを行うなど、継続的にメンテナンスが行われている。また、純正ポーチに入ったマニュアルと工具も、完全な状態で残されている。
RMサザビーズ北米本社は「フェラーリの1990年代スーパーカーの真髄を体現するこの車両ほど魅力的な例はないだろう」という謳い文句を添えて、275万ドル(邦貨換算約4億4430万円)~325万ドル(邦貨換算約5億2505万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところで、今回の「The Dare to Dream Collection」オークションは、すべて「Offered Without Reserve(最低落札価格なし)」形式で行われるというのが前提条件。したがってたとえフェラーリF40であっても、入札が希望価格に到達しなくても落札されてしまう「リザーヴなし」で出品されることになった。
しかし、そんな「リザーヴなし」で起こりうるデメリットも、国際マーケットにおける超人気モデルであるフェラーリF40には「どこ吹く風」だったようだ。
競売が終わってみれば347万ドル、日本円に換算すると約5億5800万円という、たとえ現在の円安の為替レートを加味しても驚くしかないような、まさしくスーパープライスで落札されることになったのだ。