ホンダ創成期の至宝、S600が海外オークションに登場
2010年代以降の国際マーケットでは、真正の「クラシック」および「ヤングタイマー・クラシック」を問わず日本車が大人気アイテムとなっているのは、もはやクルマ好きなら誰もが周知のことだと思います。先ごろRMサザビーズ北米本社は、新旧の自動車/オートバイにくわえて、オートモビリア(自動車趣味グッズ)に時計、そしてナイキのスニーカーに至るまで、あらゆるジャンルのモノを収集してきた、さるコレクターの愛蔵アイテムを集めた「The Dare to Dream Collection」オークションを、カナダ・トロントにて開催しました。その約300点にも及んだ出品アイテムのなかには、1965年式の「ホンダS600」が含まれていたのです。今回はその車両解説と、注目のオークション結果についてお伝えします。
かつて「エンジン屋」と呼ばれたホンダの、最初の一手
第二次世界大戦の終戦から間もない時期から、二輪車メーカーとして成功を収めつつあったホンダは、初の4輪乗用車として1962年の第9回「全日本自動車ショウ」(のちの東京モーターショー)にて、軽自動車規格を意識した「S360」(356cc)および「S500」(492cc)からなる2台の試作スポーツカーを初めて一般公開。
その後、1963年10月にS500(531ccに拡大)のみが正式リリースされたものの、それからわずか3カ月後、1964年1月になると、ホンダは「S600」を発表することになった。
当初のS600は、S500から継承されたロードスターのみのラインアップだったが、1965年2月にはハッチゲートを持つクーペも発売された。またこの2つのボディスタイルには、スタンダード版と(やや)豪華版からなる2つのトリムレベルが設定され、スタンダードは「S600」。ヒーターやラジオ、助手席サンバイザー、バックアップランプ(左右)、サイドシルプロテクターなどが標準装備とされた豪華版は「SM600」と呼ばれた。
バルブの駆動機構は国産乗用車としては初のDOHC
S600を含む、一連のホンダ「エス」でなにより特筆すべきは、きわめて高度なテクノロジーの集合体ともいうべき直列4気筒エンジン。ブロック/ヘッドともに軽合金製で、バルブの駆動機構は国産乗用車としては初のDOHC。そして、組み立て式クランクシャフトをニードルベアリングで支持するという、おそるべき精巧な構成としていた。
しかも、ツインキャブですら高性能の証とされていた時代に、京浜精機製CVキャブレターを4連装。これらの驚異的なテクノロジーへのこだわりは、9500rpmという驚異的な高回転をもたらし、606ccの排気量から57psの最高出力を獲得するに至らしめた。
このエンジンには4速マニュアルギアボックスが組み合わされるとともに、ハイポイド式ディファレンシャルを介した左右の駆動用チェーンケースを、リアのトレーリングアームと兼用としたチェーンアクスルを採用している。
いっぽうフロントサスペンションは、縦置きトーションバースプリングによるダブルウイッシュボーン式、つまり4輪独立懸架とされたうえに、ステアリングもラック&ピニオン式。さらに、アルフィンドラム(フィンつきアルミ製ドラムブレーキ)など、同時代の上級ヨーロッパ製スポーツカーにも匹敵する、走りのための装備が盛り込まれていた。