メルセデス・ベンツ280CEとはデザイン面でも雲泥の差だった
そんなわけだからBMWの3.0CSというクルマにはよく乗った。ほぼすべて新車だった。3.0CSは少なくとも記憶する限りすべてがオートマチック車であった。マニュアル車は後述する「2800CS」にしか乗ったことがない。とても華奢なピラーで構築されたグリーンハウスを持つ美しいスタイルで、当時同じく導入していたメルセデス・ベンツ「280CE」とはデザイン面でも雲泥の差。
そしてスポーティさでも正直なところ雲泥の差であった。どちらも当時のクルマらしく、ステアリング径は大きめだが、メルセデスの方がやはりBMWよりもさらにひと回り大きく、そのハンドリングもBMWほどスポーティなものではなかった。
会社にあった3.0CSはいわゆるCSAと当時称したオートマチックのモデルばかり。たしかボルグワーナーだったと思うが3速のATで、お世辞にもシャープな印象を持たなかったのだが、それでも走りはメルセデスのDOHCエンジンを搭載した280CEよりは上だった。
「2000CS」に端を発する一連のBMWクーペデザインは当時のBMWデザインチーフだったヴィルヘルム・ホフマイスターによるものという説が最近では主流である。ただし、逆スラントのフロントノーズのアイデアを含む多くのエレメントはジォヴァンニ・ミケロッティによって作り出されたものである。
メルセデスを凌駕していたBMWのエンジン
一方でホフマイスターが手がけたのが、今もBMWデザインの基本的デザインランゲージであるホフマイスター・キンクを生み出したことだろう。いずれにせよ美しいBMWのクーペデザインはこの時に始まった良き伝統である。
さて、オートマチックの3.0CSはまだ当時フリクションの大きかった出来の良くないオートマチックのせいで魅力の半分を削がれていたと言って過言ではない。その発進も独特で、ブレーキを踏んでシフターをDに入れると、これでもかというほどテールがガクンと下がるほど強力なクリープがあった。それでも、当時すでにシルキー6と呼ばれていた直6エンジンはそのスムーズさにおいて完全にメルセデスを凌駕していた。
ある時マニュアル4速の2800CSというモデルがやって来た。まだ5速などない時代である。こいつに乗った途端、私はBMWの凄さの一端に触れた気がした。とにかく超速かった。しかもスムーズで一気にトップエンドまで回る様を体感して以来、私はBMW党になったのである。その鋭い加速、美しい音色でスムーズに回る6気筒エンジン。当時は日本の6気筒と言えば日産のL型が支配的であったが、BMWのスムーズさには遠く及ばなかった。シルキー6と称された無類にスムーズな6気筒を体験してしまった、というわけである。
今もBMWの6気筒は良いとされているが、周りが良いものを作ってきているので、言ってみれば東京タワーのようなもので大勢のなかで埋没しているが、当時は唯一高くそびえたっていた印象である。