「てんとう虫」と呼ばれ親しまれた個性的で愛らしい軽自動車
まだ日本では自動車といえば商用車がほとんどを占めた1950年代に、一般家庭向けの自家用乗用車としてデビューしたのが富士重工業(現SUBARU)の「スバル360」です。「てんとう虫」の愛称でも親しまれるスバル360にぞっこん惚れ込み、現代乗用車として乗れるようにリメイクを楽しんでいるのが愛知県在住の田中陽子さんです。
「スバル360」は婚約指輪の代わりに旦那さんが買ってくれたクルマ
時代は高度経済成長期のまっただ中。国産乗用車の普及促進政策に呼応する形で開発が進められた「スバル360」は、中島飛行機時代から受け継ぐ高水準の航空機づくりのノウハウを活用し、現在も脈々と受け継がれているモノコックボディが開発された。小型乗用車ながらも可能な限り室内を広くするべく、駆動方式はリアエンジン・リアドライブ車のRRレイアウトを採用。
その個性的で愛らしいルックスは、よく似た構造を持つフォルクスワーゲン「タイプ1」の呼び名「ビートル(かぶと虫)」に倣ってか、このスバル360では「てんとう虫」の愛称が付けられ、マイカーブームの火付け役としても親しまれた。
そんなスバル360にぞっこん惚れ込み、古さを感じさせない現代乗用車として乗れるようにリメイクを楽しんでいるのが愛知県在住の田中陽子さんだ。このスバル360は1958年から1970年までの12年間生産され続けたのだが、田中さんが所有している車検証を見せてもらうと、1967年式の中期モデルで、グレードはデラックスということが判明した。
すでに57年も前に作られたクルマになるわけで、それを普段使いできるようにするには相当な努力と覚悟と決意が必要になる。そのことについて尋ねると、じつは旦那さんがクルマ好きで、その構造についてもよく理解しているという。
「自分で修理もこなす人なので、複雑なメカ系についてはすべてお任せなんです。ただ、私が求めたのは“とにかく安心して乗れる”こと。それだけです」
と、田中さんは話してくれた。田中夫妻は結婚して5年目になるが、このスバル360は驚くことに婚約指輪の代わりに旦那さんが買ってくれたもので、2人にとって大切なクルマということだった。婚約指輪の代わりというのが斬新で、田中さん夫婦は本当の意味でクルマ好きといえる。そして、このスバル360がふたりの絆を結ぶ証とというわけだ。
赤帽仕様のサンバーに搭載されていたエンジンを搭載
購入当初のスバル360は古いが程度は悪くなく、何度かレストアされた綺麗な状態だった。しかし当時のままのエンジンはあまりにも非力すぎて、登り坂をギリギリやっと登り切れる状態。
「余裕なんてまったくなく、むしろオーバーヒートしそうなくらいでした」
と、田中さんは話す。そこでモアパワーを求め、エンジン換装を決意。さすがに旦那さんもエンジン載せ替えまではできないので、昔から困ったときの駆け込み寺としてお願いしている愛知県のDADDY Motor Worksにクルマを持ち込みグレードアップ計画を練った。
チューナーと話し合い選んだパワーユニットは、同じスバルのRR車である「サンバー」のエンジン移植という案にたどり着く。よくよく調べると、このサンバーには運送業用に耐久性と出力向上を目的に特別に改良されたエンジンがあることが判明した。それが運搬用の軽トラ赤帽仕様のサンバーに搭載されていたエンジンだった。
そして、この赤帽サンバーの中から、よりパワーアップを狙って6代目のサンバー搭載エンジン「EN07型スーパーチャージャー」を選択。どうせ載せるならストレスを感じることなく速く走りたい。そんな田中夫婦の考えから、NAモデルではなく、あえてのスーパーチャージャー仕様を選んだ。
スバル360に水冷で660ccの直列4気筒スーパーチャージャー付きエンジンを搭載することは、前例なんてものはなく、まさに手探りの状態で苦労の連続。とにかく狭いエンジンルーム内にEN07ユニットを収めるために、フレームを大幅に加工するなど工夫を繰り返しながらなんとか収めた。
そして、ただ載せるだけではスペース的なゆとりもなく、エンジンルームがギチギチになりすぎてオーバーヒートが避けられないため、その対策として、大容量ラジエターをエンジンルーム内とは別にフロントボンネットフード内にも追加。つまりツインラジエター方式で冷却効率をより高めている。
>>>2023年にAMWで紹介されたクルマを1冊にまとめた「AMW car life snap 2023-2024」はこちら(外部サイト)