本気のラリー仕様に仕立てられたPV544
すでにヨーロッパのエンスージアストの間では人気のジャンルとなっている、クラシックカーによる本格派ラリー競技は、近年では日本国内でも盛り上がりの傾向を見せている。そして、スピードと耐久性を競うモータースポーツとしての「クラシックカー・ラリー」に参加するクラシックカーたちは、往年のオリジナルに安全と速さを担保するための技術が加えられ、今なお独自の進化を続けているようだ。
今回テストドライブさせていただいたボルボPV544も、そんな「本気の」クラシックカー・ラリー参加を期して、かなり気合いの入った仕様に仕立てられた1台である。
この個体はもともと、日本を代表するクラシックカー愛好家のひとりであるとともに、海外のラリー競技にも積極的に参加してきた、さる著名なエンスージアストの元愛車だった。彼は、ある国産スポーツカーとともに参戦・完走したクラシックカー・ラリーの世界最高峰「ラリー・モンテカルロ・ヒストリーク」において、雪中のステージをこのボルボPV544が勇ましく駆け抜ける姿に魅了され、帰国後に日本国内のスペシャリストから入手したPV544をベースに仕立てたとのことである。
現在では、その弟子的な存在となった若手のクラシックカー愛好家、現在30歳代後半のIさんに譲渡され、今回のテストドライブもIさんのご厚意で実現するに至った。
ラリー仕様の出来の良さは、標準型の素性の良さがあってこそ?
今回の主役であるボルボPV544には、かなり本格的なロールケージが組み込まれ、エンジンも後のボルボ「アマゾン123GT」最終型や「1800クーペ」後期型に搭載された1986ccの「B20」ユニットにコンバート。さらに足まわりも、しっかり締め上げてあるという。
この個体に搭載されたB20ユニットは、いわゆるライトチューンの状態にある。伊ウェーバー社製のダウンドラフト型ツインチョークキャブレターを1基だけ装着し、排気系も常識の範囲内。いつでもセル一発で始動して、すぐに安定したアイドリングに入る。
そしてスムーズなクラッチをつないで走り出すと、とにかく乗りやすいことに驚かされた。1-2速はもちろん、3速でも4速でも「ヴォーン」という野太いサウンドとともにグイグイ加速し、その気になれば現代の交通をリードすることも容易である。
くわえて感銘を受けたのは、車体全身にみなぎるような「しっかり」感。クラシックカーでは当たり前の、ボディや艤装がギシギシときしむような不安感は、みじんも感じさせない。だから、このラリーカー仕立てのPV544ならば、現代の路上で日常の足として使用することも可能。東北地方で行われたこの試乗のあと、東京まで乗って帰れといわれたら快諾してしまいそうになるくらいに、安心感のある1台だったのだ。
この時代を感じさせない圧倒的な剛性感に、後付けのロールケージが一定の役割を果たしているのは間違いない。しかし、手回し式のサイドウインドウを左右とも閉め、三角窓も閉じた状態でドアを閉めようとすると、まるでドア自身が閉まるのを拒むように抵抗してくる。つまりは初期のフォルクスワーゲン「タイプ1(ビートル)」などと同じく、持ち前の気密性が非常に高いことからも、元来の基本設計を1945年デビューのPV444まで遡ることのできるモノコックボディは、もともとこの時代のものとしては相当に剛性が高かったと想像できる。
また、標準版よりちょっと太めなラジアルタイヤと、クラシックラリーカーの定番「ミニライト」の軽量アロイホイールのおかげか、常識的な速度域におけるハンドリングは常時弱めなアンダーステア。でも、改造されていないはずのステアリングは非常にシュアで、おそらくはスタンダードのか細いタイヤであっても、当時の実用車としては扱いやすいハンドリングだったと想像できる。
この、とてもよくできたラリー仕立てのPV544を堪能したことにより、スタンダードのPV544にも再び試乗してみたいという欲求を、脳内でムクムクと育ててしまっている筆者なのである。