スーパーカー大挙出品のオークションに登場した「ロクナナ」ビートル
RMサザビーズ北米本社は、新旧の自動車/オートバイにくわえて、オートモビリア(自動車趣味グッズ)に時計、そしてナイキのスニーカーに至るまで、あらゆるジャンルのモノを収集してきたという、さる有名コレクターの愛蔵アイテムを集めた「The Dare to Dream Collection(デア・トゥ・ドリーム・コレクション)」オークションを、2024年5月31日〜6月1日にカナダ・トロントで開催。約300点にも及んだ出品アイテムでは、「スペチアーレ」フェラーリや現代のハイパーカー、「メルセデス300SL」など華やかなクルマたちが続々と壇上に上がるいっぽうで、可愛らしい1967年式のフォルクスワーゲン「タイプ1」(ビートル)も含まれていました。そこで今回は、そのVWビートルの車両解説と、オークション結果についてお伝えします。
世界が愛したビートルって、どんなクルマだった?
巨匠フェルディナント・ポルシェ博士の発案によるフォルクスワーゲン「タイプ1」こと「ビートル」は、その実用性、信頼性、手頃な価格も相まって、世界中のファンの熱心な忠誠心を呼び起こし、20世紀後半におけるメガヒット作となった。
プラットフォーム形状を成すバックボーンフレームは構造がシンプルで、最後尾にマウントされたエンジンはホイールベース間の全容積を障害物から解放し、ドライブシャフトを排除してトランスアクスルに直結した。
また空冷のフラット4エンジンも、ポンプやパイプ/ホース、ラジエターなどの水冷システム全体を排除し、寒い北国の冬でも凍結のリスクを軽減したことから、ビートルは世界の津々浦々で増殖してゆくことになった。
これらのシンプルな機構を活用し、じつに65年もの長きにわたって生き長らえたVWビートルは、その間基本的なスタイルこそ不変だったが、そこはドイツ車らしく、目まぐるしく改良が施されてきた。
まずは戦後間もない1945年、イギリス軍の管理下で生産開始された際には、第二次大戦前夜「KdF」時代から受け継いだ985ccの空冷フラット4を搭載したが、ほどなく1134ccに拡大。1954年からは1192ccとなる。また1960年代に入ると輸出仕様を中心に「1300」から「1500」へと大型化が進み、最終的には「1600」も設定されるに至った。
20世紀を代表する自動車のひとつとなったビートル
いっぽうボディについても、最初期モデルは左右2分割式のリアウインドウ(通称スプリット)を持っていたが、1953年式ではセンターの支柱が取り払われた「オーバル」に進化。さらにこの後、1958年式では窓は四角く大型化される(電装系から6Vと呼ばれる)。
そして1967年には、電装系が最初期型以来の6Vから、当時すでに一般的だった12Vへ変更。外観では、ヘッドライトが直立した形状になった。この年式はVWファンの間で「ロクナナ」と呼ばれているが、このロクナナは短命で、翌1968年になると最大市場たる北米を意識した大幅な変更が施される。衝突安全性向上のため前後バンパーを大型化。テールライトも拡大され、いわゆる「アイロンテール」となる。
このような進化を遂げつつ、20世紀を代表する自動車のひとつとなったVWタイプ1は、のちに広告界に革命をもたらしたと言われる「DDB」社の斬新な広告展開もあって、最大の輸出先アメリカ合衆国でももっとも売れた輸入車としてカルト的な人気を博しただけでなく、ある種の自由のシンボルとして本国ドイツとはまったく異なるアメリカ独自の文化を形成するに至ったのだ。