ピックアップの固定観念を覆す存在
2024年の新車のなかでも注目度ではずば抜けているのが、三菱「トライトン」です。アウトドアブームもあって、いまこそその価値をライフスタイルに取り入れるだけの素地ができた日本市場。これまでピックアップトラックに心動かされたことのなかったモータージャーナリスト嶋田智之さんがトライトンに試乗。固定観念を覆される驚きの連続でした。
男子たるもの、いつかはピックアップトラックに乗るべし!?
「男の子に生まれたら、誰もが将来はスポーツカーかピックアップトラックに乗るんだって思いながら育つんだよ」
いつだったか、知り合いのアメリカ人が言い放った言葉だ。さすがにそれは大袈裟だろ、なんてそのときには思ったものだけど、考えてみたらタキシードを着た若い男の子とドレスを着た恋人らしき女の子が大きなピックアップに乗り込む光景など明らかに若い衆の小洒落た暮らしに溶け込んでいるようなシーンは現地で何度となく見てるし、昔から敬愛してきたアメリカに造詣が深い作家さんの小説やエッセイにもピックアップトラックが名バイプレイヤーとして頻繁に登場している。おもしろかった映画のシーンの中で印象的な存在だったこともあった。そういえばここ30年だか40年だか記憶が曖昧で申し訳ないのだけど、アメリカで最も売れてるクルマはピックアップトラックじゃなかったか?
でも、僕はスポーツカーは大好きだけど、ピックアップトラックに心が動かされたことはなかった。だって、チューンアップされた「サニトラ」(註:サニートラック)を唯一の例外にすれば、それまで乗ったことのあるピックアップトラックはどれもこれもドライビングプレジャーに欠けてたし、乗り心地もよろしくなかった。荷台に積みたいモノが何もない人間にとっては、実用性だっていいとはいえなかった。好む人の気持ちはわからないでもないけど、個人的に惹かれる部分はまったくといっていいくらいなかったのだ。
ところが、それが圧倒的な認識不足に基づくナマクラな考えであることを、僕はすっかり思い知らされた。思わず膝をパーン! と叩いちゃうようなピックアップトラックに試乗しちゃったのだ。それは何か? 2024年の2月に発売された、三菱の新型「トライトン」だ。
三菱自動車の近年の年間総生産台数は、およそ100万台。そしてトライトンは約20万台。日本では初代が不発に終わり2代目の導入がなかったこともあってあまり知られていないが、タイで生産され全世界に輸出されている三菱の立派な主力モデルだ。ただ、冒頭で北米にまつわる話をしちゃって恐縮なのだけど、なぜか北米では展開されていない。
北米でも十分に戦えるルックス
いや、このクルマなら北米に持っていっても絶対に通用するだろうになぁ……と今の僕が強く感じているのは、後で述べるパフォーマンスや乗り味ももちろんなのだけど、まずはそのルックスだ。日本に導入されているのは4ドア+2列シートのダブルキャブのみだが、車格は横幅こそ1930mmとわずかにスレンダーなものの、全長5360mm、荷台の奥行き1525mmというサイズは、ライバルとなるだろうフォード「F150」やジープ「グラディエーター」、トヨタ「ハイラックス」にさほど引けを取らない堂々としたもの。それにも増して、3眼のプロジェクターランプとL字型に配されたLEDのデイタイムランプと骨太なグリルで構成される顔つき、逞しいオーバーフェンダー、ゴツいバンパーなどからなるスタイリングは相当な迫力を醸し出していて、好き者の目には間違いなく魅力的に映るはず。ピックアップトラックは雄々しいのが正義、パッと見からしてタフじゃなけりゃダメだ、といわんばかりのルックスだ。
今回の撮影は御覧のとおり日が暮れてからの都心をメインに行ったわけだが、帰宅途中の若いサラリーマンと思しき人が何人か足を停め、「これ、何ていうクルマですか?」「写真撮ってもいいですか?」「カッコイイですね」なんて声をかけてきた。逆に質問してみたところによれば、彼らはクルマが熱狂的に好きっていうタイプでもクルマに詳しいわけでもないらしく、「ひと目見て本当にカッコイイと感じたから」「乗るならこういうクルマがいいなと思ったから」と足を停めた理由を話してくれた。好き者以外をも自然に惹きつけてしまうあたり、まるでスーパーカー並みの存在感だ。
けれど、僕を最も惹きつけたのは、そこもあるけどそこだけじゃなかった。走り出してみて、かなりビックリの連続だったのだ。