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パラリンピックのメダリストも参加するハンドドライブ講習会とは?「夏のトレーニングにも有効かも」高速での空間認知能力を鍛えるのにバッチリです

青木拓磨選手と山田遼選手が、各種指導と先導走行・同乗走行を担当

健常者でも参加が可能

2024年7月10日(水)に千葉県・袖ヶ浦フォレストレースウェイで、一般社団法人国際スポーツアビリティ協会が主催する「HDRS(ハンド・ドライブ・レーシング・スクール)」が開催されました。今回のHDRSも、2023年11月の開催時同様にトヨタが開発中のシート「キネティックシート」を装着した「GRヤリス」を使って、実際にサーキットで障がいを持つ参加者が走行体験をする機会も設けられました。

機能障がいを持つ人ならではのドライビングレッスン

HDRS(ハンド・ドライブ・レーシング・スクール)はその名の通り、手動装置で車両の操作をする、障がいを持った方をメインターゲットとしたドライビングレッスンです。そしてレース参戦を目指すことも視野に入れたスクールとなっています。

これを主催する一般社団法人国際スポーツアビリティ協会は、子どもから高齢者までの健常者、障がい者など万人に対して、スポーツ活動に対する支援、社会福祉活動、社会貢献活動を行い、万人の才能、技量を発展推進するための国内外交流活動、スポーツ振興、ビジネスを円滑にサポートする業務に寄与することを目的としていて、その目的を達成するための事業を行う団体です。車いすの入手が日本や欧米のように簡単ではないアジア諸国へ車いすを届ける活動なども行っています。

その代表理事を務めるのが、車いすドライバーとして各種レースに参戦を続けている青木拓磨選手。国内ロードレース選手権での大活躍の後、世界最高峰となる2輪ロードレース世界選手権(WGP)にステップアップした伝説のライダーです。ただ、このWGP参戦2年目を前にした事前のテスト中の事故によって脊髄を損傷し、車いす生活をすることとなりました。

事故後に4輪ドライバーに転向し、現在は車いすレーサーとして手動装置(ハンドドライブユニット)を装着した車両で各種レースに参戦し活躍しています。そんな青木選手が、ハンドドライブでクルマを運転する人のためにドライビングテクニックの講習を行うという点に注力したスクールがHDRSです。

講習はスラロームとブレーキングの練習からスタート

そのHDRSでは、まずスラロームおよびブレーキングの練習からスタートとなります。きちんと乗車姿勢を取れていて、さらにしっかりと車両の操作ができるかを確認します。ハンドルの位置やシート位置、シートベルトといった各項目をきっちり正しい位置で乗車しているのか。機能障がいを有している人ならではの最適なドライビングポジションを取れるようになった後、サーキットの先導走行を行い、昼休みを挟み30分×3回のサーキットの周回走行が設定されています。

通常一般公道では経験することのない操作を、サーキットという安全な場所で実際に体験することで、いざというときにきちんと車両の操作ができるようになるということです。

障がい者限定のスクールではないので、一般健常者も参加が可能。ただ、参加費用は障がい者は健常者に比べ大いに割引されるのも特徴のひとつです。

車両は基本的に参加者自身のクルマを持ち込んで走行することになりますが、アクティブクラッチやグイドシンプレックスといった手動装置を組み込んだレース用車両の日産「マーチ」やホンダ「N-ONE」も持ち込まれており、これらの車両をレンタルすることも可能ですし、これらのハンドドライブ車両で走行する青木選手の助手席同乗走行も可能です。

チェアスキー選手の森井大輝氏が参加

今回も少人数での体験会となりましたが、その中で今回初めてHDRSに参加となった森井大輝さんは、パラリンピックでメダル獲得経験もあるチェアスキー選手です。高校2年生のときに交通事故で脊髄を損傷し、1998年に開催された長野パラリンピックをきっかけにチェアスキーを始め、以後2002年のソルトレイクシティから2018年の平昌まで5度パラリンピックに出場し、銀メダル4度、銅メダルを1度獲得。障がい者アルペンスキーワールドカップでは3度の総合優勝を果たしており、世界選手権では4度優勝もしています。

チェアスキー(シットスキー)とはシートの下にスキー板を装着し、アウトリガー(ストックの先に小さなスキー板を装着したモノ)を使って滑る競技となります。冬季パラリンピックは1988年から正式種目となって、回転、大回転、スーパー大回転 、滑降の4種目の競技が行われています。

現在トヨタ自動車に勤務する森井さん、サーキットでの走行経験もあるのかと思いきや、富士スピードウェイや袖ヶ浦フォレストレースウェイで走行したことがある程度とのことでした。今回のHDRSで、本格的に走り込むことができたと喜んでいました。

イベント終了後、森井さんは次のように振り返ります。

「スピンをしかけてドキッとしましたが、クルマが高速域でどんな挙動を起こすのか経験をしておく必要性を感じました。一般公道でスピンが起きてしまったとき、こういった経験があるのとないのでは大きな違いになるでしょうし、経験をしておくことが安全運転にもつながるだろうとも思いました。今日のサーキットでの走行は非常に有意義な時間になりました。もちろん、何よりも楽しかったのですが、思い切って走ることができるうえに、周回を重ねることでミスを次の周回で修正できるので、スキーの反復練習と同じように修正を重ねて行くこともできますし、速く走るライン取りを探っていったり……これはトレーニングにも使えるなぁということに気が付きました。夏場のトレーニングというと、スイスとか南半球の国に出かけていって行っているのですが、このサーキット走行なら、高速での空間認知能力を鍛えるのにもいいと感じました。今日は本当に良いトレーニングになりました」

キネティックシートの進化はいかに?

今回も「キネティックシート」の開発車両が持ち込まれましたが、これは人の骨格の動きに合わせて座面と背もたれが、骨盤と背骨の運動軸周りにそれぞれ動くことで、頭部の揺れを抑え、身体への負担を軽減できるもの。現在も開発が続けられており、今回もこのHDRSの場で実際にフィードバックを得たいということでの参加となりました。

一般道で下肢障がいを持つ方がハンドルにしがみつかなくていいというコンセプトのシートであることから、サーキットでの使用ということ自体、コンセプトが異なるわけですが、それでもポジティブな意見があったのも事実で、今回は少しサーキット走行を意識した小変更を行ったシートを持ち込んだようです。

初のサーキット体験となった中垣さん

今回参加した中垣良則さんは、8年前のバイク事故で脊椎を損傷。現在はみぞおちから下の完全マヒとなっています。中垣さん自身は4輪でのサーキット走行経験はほぼないのですが、トヨタの関連会社に在籍していることから、このキネティックシートについてはすでに開発の初期段階から体験をさせてもらっていて今回が3回目、そして初のサーキット体験とのことでした。

「以前は公道のスピード領域での使用を想定していたこともありますが、体幹の無い私でもリラックスして運転ができ、サポートも効いていて長距離移動が楽だなというイメージがありました。でも今回のサーキットでの走行となると、急カーブで身体が持っていかれるという状況になります。日常使用とは違う使い方になりますが、キネティックシートもバージョンアップしている感じで、以前は腰の動きが抑えられていたものが今度は脇からサポートされている感じで、横Gが入っても踏ん張りが効いていて、以前乗った時よりも格段に保持してくれる感じが上がっていて、疲れ知らずで楽しめた感じですね。緊急時の対処では身体が持っていかれて正しい操作ができなくなるということが防げますし、安全に繋がります。早く商品化されるのを期待したいですね」

HDRS、次回は2024年9月30日(月)に同じく千葉県・袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催予定です。障がいを持っていなくても健常者でも参加が可能で、クルマを持ち込まなくてもレンタルも可能。また同乗走行だけ体験したい方でも大丈夫。ハンドドライブユニットの世界を体験してみるのもいかがでしょうか。

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