30万台弱が販売された2シータースポーツカーのヒット作
かつて大人気を博しつつも、今ではあまり見かけなくなったモデルたち。そんな時代を象徴するモデルに焦点を当ててヒストリーを振り返りたいと思い、今回取り上げるのはBMW「Z3」です。純粋なスポーツカーというキャラゆえに「街にあふれる」とまではいわないものの、それでもかなりのヒット作となったZ3をご紹介します。
ユーノス ロードスターの影響を受けて誕生
BMW「Z3」といえば忘れてはならないのが、1989年に登場した「ユーノス ロードスター(マツダMX-5ミアータ)」の影響を受けて企画・開発されたという歴史的背景であろう。
この日本の名車が、1970年代の後半以降ながらく途絶えていた「小型の2座席ロードスター」というジャンルを復活させると、直後からこのジャンルにおける開祖ともいうべき英国の「MG F」や、ドイツのメルセデス・ベンツ「SLK」、かつては英国と並ぶスポーツカー王国だったイタリアのフィアット「バルケッタ」など、ヨーロッパの名門メーカーにも数多くのフォロワーを生み出させることになったのだが、Z3もそのうちのひとつだったのだ。
そしてZ3には、もうひとつ重要な役割が担わされていた。それは、BMWが初めてアメリカ合衆国に設けた生産拠点、サウスカロライナ州スパータンバーグ工場でアセンブルされる量産車第1号となることだった。
映画『007 ゴールデンアイ』で世界初公開
このような重責を担ったZ3は、ピアース・ブロスナンが初めてジェームズ・ボンドに扮した、映画『007 ゴールデンアイ』(1995年公開)の劇中にて世界初公開されたのち、1996年モデルとしてリリースされることになった。
この作品は興行収入で1995年の第1位となった一方、「ボンドカー」としてのZ3の登場は、それまでのアストンマーティンやロータス「エスプリ」などと比べてしまえば、少々インパクトに欠けるとも評された。それでも、Z3の潜在的購買層へのアピールは充分なものだったようで、デビュー記念のファーストエディションは、正式発売を待たずして売り切れてしまったという。
こうして誕生したZ3は、BMWのE36系「3シリーズ・コンパクト」のプラットフォームに、2シーターのオープンボディを組み合わせたとされている。しかし実をいえば、ベースとする3シリーズ・コンパクトのシャシーは、さらに時代をさかのぼったE30系3シリーズに由来する旧式なもの。とくにリアサスペンションはE36以降のマルチリンクではなく、BMW伝統のセミ・トレーリングアームが組み込まれていた。
パワーユニットは、当初「316ti」用1.8L直列4気筒SOHC(EU市場のみ)および「318ti」用の1.9L直列4気筒DOHC16バルブからスタート。正式デビュー翌年の1997年には初の6気筒モデルとして直列6気筒DOHC 24バルブ、2.8Lエンジンを搭載した「Z3 2.8」も登場する。