軽トラ唯一ミッドシップカーのアクティを流用チューン
今や軽トラでのクルマ遊びというとドレスアップだけに留まらず、ミニサーキットにおいてワンメイクレースが開催されるほど広がりを見せています。今回紹介する“ナナサキ”さんは愛車ホンダ「アクティトラック」を駆り、サーキット走行の魅力にどっぷりハマッてしまったひとり。最初は気軽な気持ちで参加したものの、次第にレースとなると持ち前の負けず嫌いな性格が出て、もっと速く走るためにチューニングに没頭。ほぼ手探りの創意工夫チューンによって、軽トラとは思えないパワフルな加速と鋭いコーナーリング性能を発揮するマシンを完成させました。
バイクレース引退から軽トラでのレースへ
“ナナサキ”さんはバイクレース経験者で、このホンダ3代目「アクティトラック」はもともとトランポとして使っていた。レースともなれば転倒やクラッシュは付きもの。若い頃は体も丈夫でなんとかなっても、やはり年齢とともに衰えは隠しきれないもの。そう思った瞬間にバイクレース引退を決意した。
だが、サーキット遊びの刺激を味わった者は、再びサーキットに戻りたくなる。バイクも手放し、あるのは当時トランポとして使っていたアクティトラックのみだった。そんな時、SNSを眺めていると、ミニサーキットで軽トラワールドGPなんて競技が開催されているとの情報を入手。これはちょっと面白いかも……ということで、トランポのアクティでレースにエントリーしてみたら、そこには偶然にも高校時代の友人がスズキ「キャリイ」に乗って参加していた。
“ナナサキ”さんはレース経験者である。昔なじみが同じレースに参加していたら自然とこう思うはずだ、「アイツにはゼッタイに負けたくない」と。そんな負けず嫌いの“ナナサキ”さんが駆るアクティとは違って、友人のキャリイはかなりイジッていて速かった。最初の頃はまったく追いつけなかった。そもそもレギュレーションによってクラスも違っていたので、ほぼノーマルのアクティトラックではタイム差だけでなく、同じ土俵にも立てず、戦いにすらならなかった。
パーツの少なさに苦労するが、バイクの知識を活用して乗り切る
こうなると燃えてしまう! だったらと、自分のアクティトラックのポテンシャルを高めるべくサーキット仕様としてのチューニングを開始。だが、現実はベースとなるアクティトラックに厳しく、“ナナサキ”さんは少しだけ途方に暮れる……。
いざチューニングを開始しようとするも、人気車種であるキャリイと違って、軽トラ界でマイナーなアクティは、ほとんどアフターパーツが存在していないことが判明。そこで気持ちを切り替え、バイクいじりで培ったメカの知識を武器に他車種からの流用チューンでなんとかする方法を模索。純正のままでは、まったくパワーが足りず、また、サスペンションもプアでギア比にも問題を抱えて失速する、といった欠点をひとつずつ解決するチューニングをあみ出した。
幸いなことにアクティトラックは、軽トラで唯一のミッドシップ・レイアウト車なので、ハンドリングとトラクションのかかりは良い。広報資料によると、もともとホンダの考えは、スポーティな操縦性を狙ったわけではなく、荷台スペースを広くフラットにするための合理的な設計というのが理由だった。しかし、その構造を採用した結果、重量配分はナナサキさんの3代目アクティトラックでは前49:後51を実現。このバランスの良さによって、空荷でも後輪にしっかりと荷重が加わり、優れたトラクション効果を引き出した。また、ミッドシップによって、ウネリのある路面など、滑りやすい場面でも後輪が空転する心配は少なくなるメリットも生み出されていた。
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ミッドシップのメリットが存分に発揮される
当然サーキット仕様ともなれば軽量化を行う。軽トラの荷台に取り付けられたアオリ等は取り外すわけだが、これによって他の車種は、よりフロントヘビーなクルマになってしまうが、ミッドシップのアクティトラックだけは、むしろ程よい前後重量バランスになるわけだ。
“ナナサキ”さんはその点を考えて、パーツが少なくてイジりにくいアクティを、あえて手放さず、純正の持ち味を活かすチューニングによってポテンシャルを高める手法をとった。ただ彼はこうも言う。
「まぁ、これについてはライバルである同級生と同じクルマにしたんじゃ面白くないですから」
あえての別車種で勝負に挑む。その意気込みはインタビュー中にも強く感じた。
サーキット仕様としてエンジンはゴコイチ!!
あまり知られていないアクティトラックチューニング。その内容は凄まじいものだった。まず、エンジンから説明していくと、このユニットは5個イチで構成されている。まずエンジン腰下ブロックは「ライフダンク」用を使い、ピストン・コンロッドは「バモス」用、ヘッドは「ビート」と「トゥデイ」をミックスしている。そして、極めつけはライフダンク用ターボも装着するなど流用チューンを施している点だ。
搭載にはさまざまなレイアウト的な工夫があったが、せっかくコンパクトにまとめられる動力系統の良さを犠牲にすることなくモアパワーを追求する効率化を測ったエンジンを完成させた。そして、このパワーユニットをLINK ECUを使って制御。セッティングも含めてオーナー自身がパソコンをイジり、その日のコンディションや状態に合わせて調整を行っているというから感心させられる。すべて独学ということだった。
また、走りに直結するサスペンションにはついては、フロントがバモス用車高調キットをベースに加工を施し、板バネ仕様のリアにも、走りをよくする秘密のアイテム+SPL加工を施している。また、サーキット走行にはあまりにも向いていない駆動系については、トランスミッションをビート用に交換し、デフ+ファイナルもビート用をセット。LSDは低イニシャルで作動しパワーロスを防ぐクスコRSをセットさせることで小気味よいシフトギアチェンジを可能とし、ドカンと遅くなる失速の恐怖から解放された。
このチューニングによってアクティトラックのポテンシャルはレベルアップ。ライバルだった同級生にも良いレース展開を繰り広げながら、勝った負けたの勝負を楽しむ日々。今では互いに切磋琢磨し、クルマいじりとドライバー自身のスキル、両方を磨く関係性になっている。
今後の予定はビート用のマニホールドを移植し、3連スロットル化も試したいという。また、ターボも現在は純正タービン流用なので、もっと大きいタイプに交換したいと思っているそうだ。かなりやり込んでいても、次から次へとやりたいことが尽きないの走り屋、チューニングフリークというものだ。
>>>2023年にAMWで紹介されたクルマを1冊にまとめた「AMW car life snap 2023-2024」はこちら(外部サイト)