ほぼ新車のポルシェ「911 GT2」を手に入れるチャンスだった
2024年5月31日〜6月1日にRMサザビーズがモナコで開催したオークションにおいて、1996年モデルのポルシェ「911 GT2」が出品されました。その出品カタログを見た多くのポルシェ・ファンは、驚愕の表情を隠すことができなかったに違いありません。そもそもこの993世代の911で生産されたGT2のオンロード・バージョンの数は、わずかに57台。その希少性だけでも話題になるのは十分に理解できるところですが、さらに驚愕の理由はオドメーターに刻まれた数字でした。
ドイツからアメリカに渡った履歴が残る
1995年に新車でドイツにデリバリーされ、その後アメリカに渡った履歴が残る出品車のポルシェ「911 GT2」が、これまでに走行した距離はわずかに48km。スピードイエローにペイントされたボディをはじめ、そのコンディションはまさに新車そのものともいえる1台なのだ。
911 GT2は、993型「911ターボ」の最上級グレードを新たな高みへと導いた。全輪駆動システム、リアシート、パワーアジャスタブル・フロントシート、その他さまざまなアイテムを排除することで、GT2の車両重量は約225kg削減され、レーシングフォームでは、ツインインタークーラーKKKターボチャージャーを備えたM64/60Rエンジンが480psの最高出力を発生。
このエネルギーはすべて、新開発の6速MTと非対称40/60リミテッド・スリップ・ディファレンシャルを介して後輪に供給された。ロード仕様のGT2も、最終的には1998年モデルで450psを得ているが、この1996年モデルの段階では3.6Lの水平対向6気筒ツインターボエンジンが発揮する最高出力は430psに抑えられていた。
GT2のボディワークには、アルミニウム製のドアとフロント・ボンネット・リッド、そして非常にアグレッシブなエアロパッケージが採用され、フロント・エアスプリッターにはアップターン・カナードが、リア・デッキには巨大なバイ・プレーン・ウイングが装着され、インタークーラーに送られるエアダクトが組み込まれている。
この先2度と現れることがない!?
アルミニウム製アウターリムとマグネシウム製センターを持つ18インチのマルチピース 「Speedline for Porsche」アロイホイールが、ボルトオン式のグラスファイバー製ホイールアーチを埋め尽くした。その姿は911 GT2が誕生したそもそもの理由である、FIA GT選手権などにおけるGT2クラスのホモロゲーションを得るための、すなわちモータースポーツの世界との関連性を、見る者に強くイメージさせる。
これら独自のチューニングの結果、911 GT2はこの993型の前期仕様ともいえる430ps版でも、300km/hの最高速を実現し、0-96km/h加速で4秒を切る加速性能を実現した。一方で、パワーアシスト付きの4輪カーボンファイバー・セラミック・ディスク・ブレーキは、フェードすることなくクルマを停止させる役割を果たしたのだ。
インテリアもまたじつにスパルタンなフィニッシュだ。レカロ製のレース用バケットシートが1脚装備され、ボディカラーとマッチさせたイエローのロールケージがキャビンを包み込む。このようにセンセーショナルな911 GT2を手に入れる機会は、おそらくは2度と訪れないだろう。
RMサザビーズもそのバリューを高く評価して、130万~170万ユーロ(約2億2000万円~2億8730万円)というエスティメート(落札予想価格)を設定したが、残念ながら今回のオークションでは落札者は現れなかった。ポルシェというスポーツカー・メーカーにおけるパフォーマンスのベンチマークとなった傑出したモデルを手に入れるまたとない機会は、残念ながら誰のものにもならなかったのである。