マクラーレンはレースに勝つために生まれたブランド
その戦略の要諦はこうだ。モデルごとにはっきりと区別できる見た目の個性を与えると同時に、マクラーレンファミリーであることを明確に主張できるようデザインする。そのためにデザインのDNAを明らかにし、マクラーレンデザインの原理原則をまとめた。
大ファミリーの兄弟姉妹を思い浮かべてほしい。一卵性の双生児でなければ、それぞれの顔立ちには明らかな個性の違いがあって、けれども同じ両親を持つ一家の一員であることが分かるだろう。今後のマクラーレンは、今よりもずっとモデルシリーズごとの違いが明確になると同時に、裏を返せば、モデルの種類も増えるということだ。
「3億円以上するハイパーカーはそれらしく見えてほしいとオーナーは思うでしょうし、トラック性能に優れたモデルならいかにもサーキットが似合いそうな出で立ちに、GT性能重視であればそのような雰囲気に、それぞれデザインする必要があるのです」
と、トビアスはいう。
デザインbyパフォーマンスが全ての起点になる。要するにマクラーレンは“ためにするデザイン”は絶対にしない。まずはパフォーマンスが重要であり、デコレーションはしない。幸い、マクラーレン本社にはエンジニアはもちろん、レース部門、エアロダイナミクスやマテリアル、人間工学の専門家といったプロフェッショナルたちが、それこそ“まるで家族”のように1カ所に集まっている。デザイン部署だけでことを進めていい場所ではないし、最初から彼らを巻き込んで仕事ができる環境にある。それがマクラーレンの強みであり、トビアスが理想と感じた仕事の現場でもあるのだろう。
「マクラーレンはレースに勝つために生まれたブランド」
トビアスの語ったこのフレーズがすべてを物語っている。デザインのみならずマクラーレンの作るロードカーの真髄を表現する。
未来のハイパーカーデザインについて聞いてみた。
「マテリアルやエアロダイナミクスがさらに進んで、アクティブに変化するエクステリアデザインが主流になっていくでしょう」
彼のデザインする新たなマクラーレンを早く見てみたいものだ。