コース上だけでなく、ピット裏でもドラマが起きていたスパ24時間レース
ドイツ在住でモータースポーツを中心に取材を続ける池ノ内みどりさんが、2024年で100周年を迎えた伝統のスパ24時間レースを取材してきましたが、とうとう激闘のレースもドラマチックな典型とともに終わりを迎えました。各チームスタッフが奮闘する姿から、波乱のレースの顛末まで、熱気に満ちたレースウィークを終えた現地スパの様子をお届けします。
レーススタッフの模様もまたドラマチック
記念すべき100周年のスパ24時間レース。日没後に大雨に見舞われて、セーフティカー先導でひたすらグルグルとサーキットを周回し続けることに。そのどしゃぶりの最中の午前2時半頃に、私はいったん宿へ戻りシャワーを浴びて仮眠を取ってきました。サーキットへ戻ったのはすっかり夜も明けてからで、雨は随分と小降りになっていました。メディアの駐車場へ入るとBMWのテスト車両が停まっていました。どなたかワークス関係者が乗って来られたんでしょうね。
メディアセンターに寄って、再び撮影の準備をしてからピットに降りてみました。リタイアしたチームは撤収作業に追われ、生き残っているチームのみなさんは精根尽きそうなくらいに疲れ果てている姿を多々お見かけしました。それもそのハズ。レース自体は24時間なのですが、チームスタッフ、タイヤや燃料等のサプライヤー等、24時間レースに関わる人たちは16時のスタートながら、午前10時前後には必ずサーキットに来ています。24時間レースが終了しても、撤収作業で夜遅くまで居残りをされていますので、実質は36時間以上にわたって起きて仕事をし続けておられます。
レースも残すところ数時間。メディアセンターの中では「ハッピーバースデー♪」が聴こえてきました。SRO(主催者)のスタッフのお誕生日だったようで、メディアセンターのみんなで大合唱になりました。お誕生日のご本人はめちゃくちゃ照れておられましたけどね。
最後の最後で大波乱のレース! フェラーリ優勝の可能性は?
強豪の数台がピットストップのたびにシャッフルしてトップ争いの先頭集団が固まってきて、メディアセンターで同僚らとモニターを見ていても誰が勝つんだろう? と予想がつかないほどの接戦を繰り返していましたが、51号車のフェラーリの優勝がほぼ見えた矢先に大事件発生。
この時はもう最後50分を切っていた頃でしょうか。51号車が最後のピットインをしようとピットロードへ向かったところ、先にいたランボルギーニが突如ストップ。何度もエンジンスタートを試みますが立ち往生。その間に007号車のアストンマーティンがあっという間にタイムを縮めてしまいました。すぐにオフィシャルカーによってランボルギーニは牽引されたのですが、この時点で5位までポジションを落としたフェラーリの優勝の可能性は残念ながら絶たれてしまったのです。
運を味方につけて勝利したチームは……
しかし、この51号車の最終スティントを担ったのは、昨年のル・マン24時間レースでは、フェラーリのハイパーカーをドライブして見事総合優勝を飾ったフェラーリの誇るワークスドライバー、アレッサンドロ・ピエール・グイディ! どうしてもスパでも優勝をしたかった彼は、必死に追撃し、まさに鬼の形相かと思うほどにどんどんとオーバーテイクをこなしていきますが、残念ながらあんなにも長く感じた24時間レースは無情にもここで終了。2位まで巻き返しましたが、本当に惜しい最後でした。
また、フェラーリに次いで2位は確実かと思われた998号車のBMW M4 GT3も最後2ラップのところでゴール目前でタイヤバーストをしてポディウムを逃しました。この2つのラッキーが重なったこともあり、アストンマーティンは1948年以来、大会史上2回目の総合優勝を果たして、ドイツ勢が圧倒的に強いこのスパで、新たな歴史を刻みました。24時間レース、最後の最後まで本当に何が起きるか分かりません。
台本のない人間ドラマも魅力の24時間レース
スパ24時間レースでもレースが終了するとファンの方がコースの上になだれ込んできます。私も毎年ファンの方と同じですが、オゥ・ルージュの傾斜が凄いことをあらためて実感しますし、縁石の上を歩いてみたり。スタートグリッドにいつもいる曲芸(?)のTotalのオネエサマたちも再び登場。表彰式を見た後はすぐにまたメディアセンターまで山登りをして、記者会見に参加して取材は終了です。
いったん宿に戻って荷物を置いて、地元の新聞社の方とお勧めのベルギー風ギリシャ料理のお店でお疲れ会を開催。まずは地元ベルギーの一番ポピュラーなジュピタービールで乾杯です。軽くてとても飲みやすい! 私が選んだのはちょっと日本のイカめしを思い出す風情のお料理で、イカの中にギリシャのお米風のパスタが詰めてあるものです。もちろん付け合わせに選んだのはベルギー名物のポテトです。新聞社の方はお肉モリモリの盛り合わせ。レースをあれこれ振り返り、お腹いっぱいになって早めにお開きです。
24時間レースではマシンの魅力もさながら、レースを通してさまざまな人間ドラマが垣間見られるところが大きな魅力のひとつかも知れませんね。今年は私の人生初となるデイトナ、ニュルブルクリンク、ル・マン、スパと4つの素晴らしい24時間レースを現地で取材できたことは大変貴重な体験となりました。あんなにもぐったり疲れたのに、もう来年がとても待ち遠しいです!