2030年ごろには実用化を目指す
夏の祭典として長くバイクファンに親しまれている2024 FIM世界耐久選手権“コカ·コーラ”鈴鹿8時間耐久ロードレース 第45回大会(以下:鈴鹿8耐)。そのレースウィークのイベントのひとつとして、カワサキが水素エンジン車両を8耐ファンの前で世界初披露し、実際に走行する姿を見せました。
既存のバイクに水素タンクを載せて
鈴鹿8耐のレースウィークとなる2024年7月20日(土)、ピットウォークの時間を使用して鈴鹿サーキットのコース上で、1台のデモランが行われた。この日は、鈴鹿8耐の本戦前日ということで午後にはTOP10トライアルなどが行われるものの、比較的余裕のある1日。そのピットウォークの時間に開催されたこのイベントは、会場に詰めかけた多くのファンの目をくぎ付けにした。
それが世界初披露となった、カワサキモータースジャパンが持ち込んだ、水素を燃料として燃焼させて走行する「水素エンジンモーターサイクル」である。カワサキではすでにハイブリッドバイク「Ninja 7 Hybrid/Z7 Hybrid」や電動バイク「NINJA e-1/Z e-1」」などを発表しているが、この車両の披露は、カーボンニュートラル世界の実現に向けてマルチパスウェイで取り組んでいくという姿勢の表れとなるのだろう。
スタッフの手押しでホームストレート上に持ち込まれた車両は、直前までコースを走行していたスマートなレース車両とは一線を画す仕上がりとなっていた。どちらかというと特撮ヒーローもので登場するようなゴテゴテ感がある1台であった。
その主たる要因は、車両後部におかれた2本の水素タンクとそれを覆うカバーの存在だろう。ツーリングバイクでも見かけるサイドバッグやパニアケースなどとは比較にならないような大きな「水素タンク」が車両に乗っかっているというイメージだ。
まだ、水素エンジン車両のための枠組みが用意されていないどころか、さまざまな規制もあって、今すぐこの形で販売されるようなことはない。そのような状況下で、燃料となる水素タンクを水素エンジン車両用に搭載するとなると、燃料電池車に使用している、現在入手可能な水素タンクを搭載するのが一番手っ取り早いということだろう。
トヨタ「ミライ」に搭載されている3本のタンクのうち、もっとも小さな水素タンク(70MPaで内容量1kg=約50L)をチョイス。これを2本搭載していることになる。何はともあれ登場と同時に「すごいぞ」感を感じることができた。
Ninja H2 SXをベースに開発
この水素エンジン車両はイチから製作した車両ではなく、カワサキの最高水準の技術を搭載し、高い性能と快適性を融合したスポーツツアラーである「Ninja H2 SX」がベースとなる。H2というのがいかにも、ではあるが、バイクファンならご存知の通り、このH2は、カワサキが1970年代に発売していた「マッハ750SS」(MACH IV)の型式名「H2」に由来した車名であって、この水素エンジン車の計画が最初からあったわけではない。
この水素エンジン仕様となったスーパーチャージドエンジン自体は、すでに2022年9月のスーパー耐久シリーズもてぎ戦の現場で、「モーターサイクル用水素燃料直噴エンジンを搭載した研究用オフロード四輪車」として、バギーに搭載された形でお披露目はされている。同じく水素エンジンの開発にかかわっているトヨタとの共同の記者会見なども行われたのでご存知の方も多いだろう。
水素は、空気と水素を使用して発電する燃料電池を使用し、走行する燃料電池車(FCV=Fuel Cell Vehicle)のほうが現在はポピュラーであろう。トヨタのミライやホンダの「クラリティ」などの市販車が登場し、2輪でもスズキがスクーターの「バーグマン」をベースとした実験車両で実証実験を行っている。また水素を充填するための水素ステーションも全国各地に設置が進んでいる。
今回披露されたのは燃料電池スタックを搭載した電動車両ではなく、既存のエンジンに若干手を加え、水素をガソリンと同じように燃焼させて推進力を生む水素エンジンのバイクとなる。H2に搭載されている998cc直列4気筒スーパーチャージドエンジンに、水素を筒内に直接噴射することとなるが、燃料の供給側の手直しだけで基本的にエンジン内部の変更はナシ、である。
このイベントのハイライトは、テストライダーによってこの世界初披露の車両が鈴鹿のコースを走行したことである。今回はその走行をしっかりと見せたいということで、低速走行で場内の観客にライダーが手を振りながらの走行となった。走行後は鈴鹿サーキットのグランドスタンド裏にあるイベントブースに設けられたカワサキのブースで、一般客向けに実車の展示も行われた。ちなみにこの水素エンジンモーターサイクル、カワサキとしては2030年ごろには実用化を目指すとしている。