世界40台限定でデリバリーはすでに完売
マーク・フィリップ・ゲンバラは、オンロードとオフロードの両方で究極のドライビング体験を提供する「マルシャン」の生産を開始しました。マルシャンは火星人を意味し、開発舞台のひとつであるアラブ首長国連邦の砂漠の景色からインスピレーションを受けています。その名のとおり、全地形対応型ともいえる究極のスーパーカーを紹介します。
火星人の名前を持つ「マルシャン」
人類が天動説を受け入れて以来、宇宙への想像を膨らませてから長い時間を要した。近い将来に民間人が月へ向かうという計画も実現可能とされている現在だが、アナログだった時代に学者が火星を観測し、火星人が存在する可能性を発表した。それによると、大運河が数日のうちに建設されたという。ならばそれほどまでに優れた建設技術を持ち、たくさんの工程を短期間で達成する火星人は、大きな脳を持つ頭でっかちで、たくさんの作業を瞬時にこなす多くの手を持つだろうと想像された。
火星人はタコのような姿が想像され、近代映画でもそのような姿が宇宙人とされる。ここで紹介するマーク・フィリップ・ゲンバラ(Marc Philipp Gemballa GmbH)のポルシェ992型「911 ターボS」をベースとする全地形対応型スーパーカーは、「マルシャン(MARSIEN)」、つまり火星人の名前を持つ。火星の荒野を走破する4WDのパフォーマンスカーであるとも捉えられるが、もともとポルシェは1980年代から4WDの開発に取り組んでいた。
「911」の地上高を上げ、ボディがやけに平べったく見えたWRCやパリ・ダカールラリーに挑んだモデルが存在し、その技術は後に「959」に反映された。これは日産「スカイライン」の4WDシステムにも大きな影響を及ぼしたといわれるが、世界的に見ても当時の4WDは悪路走破のためのもの。舗装路面でもパフォーマンスには疑問もあった時代だった。
たしかに圧雪路や氷上などで、当時のトラック然としたクルマが曲がろうとすると駆動による直進性が勝り、路側帯に突っ込んだスキー客の車を多く見かけたものだ。一方で、トヨタ「ハリアー」がクロカンスタイルのボディを持ちながら前輪駆動モデルが爆売れした日本事情は、海外から理解されるのに時間がかかった。
そこから「見た目だけ4WD」なるものが認識されたが、今でもほとんどの海外メーカーではドライブトレインが4WDを基本としている。マーケットによって状況は異なるが、普段は使わない駆動システムの機器を搭載することは、複雑な機構が持つ重さや摩擦によって燃費が悪く、コントロールシステムにトラブルを招く可能性も高い。スカイラインの4WDなどは、そのシステムゆえにフロントオーバーハングがパフォーマンスカーとしての大きな弱点とされたこともある。それでも4WDはマーケットで好調といわざるを得ない現代だ。
名車「959」をオマージュ
マーク・フィリップ・ゲンバラが発表したマルシャンは、ゲンバラの創業者、ウーヴェ・ゲンバラ氏の息子であるマーク・フィリップ・ゲンバラ氏が立ち上げたブランドの作品だ。
マルシャンはフルカーボンボディを採用するが、911の空力改善にノーズを低くしたルーフ(RUF)が手がけたモデルの面影が残る。パワーソースもルーフによってアップグレードされ、最高出力750ps以上、最大トルク930Nmを発生する。随所に過去の経験が活かされているのだ。
特徴的なリアウイングをはじめとして、959のシルエットが垣間見えるのは1980年代のポルシェが優れていた証なのだろうか。マルシャンはニュルブルクリンクからアラブの砂漠までテストが繰り返し行われ、生産がついに開始される。40台の限定生産で、世界16カ国へのデリバリーはすでに完売とのこと。はたして日本でその姿を見ることができるだろうか。