見たことのないクルマが展示されていた
モータージャーナリストの中村孝仁氏が綴る昔話を今に伝える連載。今回は、1970年代後半にドイツに住んでいたころに、知人に教えてもらった「フランスの博物館で出会ったクルマたち」を振り返ってもらいます。信じられないほどのお宝コレクションが公開されていた意外な理由とは?
稀少かつ珍しいモデルが450台ほどあった
1976年から1978年までの2年間、当時の西ドイツで過ごした。よく言えば留学、悪く言えば遊学である。3回ほどあちこちに引っ越しをした。最初はウルムという町の近くにある小さな村で、語学学校のゲストハウス。次いでミュンヘンの旧オリンピック選手村。3度目は再び語学研修でコッヘルというこれも小さな村。そして最後はミュンヘンの駅の近くのアパートといった具合である。
たしか1977年のこと、ドイツで知り合った元オペルのデザイナー、児玉英雄さんから連絡を貰い、フランスのムルハウスという町に凄い博物館が発見されたから見た方がいいよと言われ、行ってきた。
この博物館には世界最大のブガッティ・コレクションがあるほか、稀少かつ珍しいモデルがおおよそ450台ほどあった。もともとはシュルンプ兄弟(ハンスとフリッツ)によってコレクションされたもので、紡績工場を営んでいた彼らはある意味金に糸目をつけずにクルマを買い漁っていた。
もともとブガッティはモールスハイム(ドイツ語読み)にあったが、シュルンプ兄弟の博物館はそこから南へ70kmほど行ったムルハウス(これもドイツ語読み)にあって、シュルンプ的には同郷というイメージが強く、だからブガッティを集めていたのだと勝手に想像する。
ミュンヘンからクルマでムルハウスに向かい、途中、当時まだ存在した国境で1時間近く足止めされた。その理由はイタリアの元首相、アルド・モロ誘拐暗殺事件が勃発し、当時はとりわけ赤軍への警戒が強化されていた時期で、日本人だと赤軍への関与が疑われたからである。おかげで私の愛車だったフィアット「128」はフロアマットまで剥がされて検査されたのだ。