ロールス・ロイスが初めてV12気筒エンジンを搭載した「ファントムIII」とは
ロールス・ロイス創業120周年を記念して、1930年代にロールス・ロイスが初めてV12気筒エンジンを搭載した「ファントムIII」を紹介します。最新のピュアEV「スペクター」は、ファントムIIIのコードネーム「スペクター」からインスピレーションを得て命名されるなど、ロールス・ロイスの歴史に名を刻む重要なモデルです。
航空機エンジンの豊富な知識や経験を取り入れる
ヘンリー・ロイス卿(以下:ロイス)は1930年、ロールス・ロイスの直列6気筒のエンジンが技術的限界に達していることに気づいていた。これ以上のパワーやトルクを引き出すことは、不可能だったのだ。すでにアメリカではV8、V12、さらにはV16と、はるかにパワフルなエンジンを搭載した高級車が生産され、ロールス・ロイスが遅れを取ってしまうことに危機感を抱いていた。
ロイスはV型12気筒の航空機エンジン設計について豊富な経験を持っており、ロールス・ロイスも同様にそのエンジンの製造に長けていた。したがって、ロイスが1929年に登場した「ファントムII」の後継モデルにV型12気筒エンジンを開発するのは、論理的かつ自然な成り行きだった。
この新しいエンジンは、技術的に大きな進歩を遂げた。新しいV型12気筒エンジンはファントムIIの直列6気筒ユニットよりも背が低く、排気量は先代の7.6Lに対して7.3Lと小さいものとなった。よりコンパクトになったことでボンネットが短くなり、乗員のスペースを大きく取ることができた。もっとも重要なのは、この新しいエンジンはロイスが求めていたパワーアップを実現したことである。初期型の最高出力は165ps(ファントムIIは120ps)であったが、その後のモデルは180psまで向上した。
また、シャシーも設計上大きな飛躍を遂げた。ロイスはファントムIIIに独立したフロントサスペンションを装備し、乗り心地とステアリングのコントロール性能を大幅に向上させた。ほかにも劣悪な路面で発生する騒音、振動、ハーシュネスの伝達を大幅に低減する細やかな技術的進歩も数多く取り入れた。これらの開発を組み合わせることで、1930年代にもっとも静かでなめらかな乗り心地のクルマを完成させた。