アウトバーン全開走行はコンパクトカーでは無理?
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「フィアット500C」についてです。2024年はドイツにも拠点を設け、レース活動を行っている木下さん。現地での移動はレンタカーを使用していますが、今回の相棒はフィアット500C。非力なコンパクトカーでアウトバーンを走行しましたが、意外にも走りの良さに驚いていました。全開で走行してみた印象とは?
100psもないフィアット500Cで走ってみた
自動車が走る道路において、世界一高速化の国と聞いてまず思い浮かべるのは「ドイツ」ではないでしょうか。ドイツは一般道でも法定速度は100km/hですし、高速道路アウトバーンなどは法定速度無制限区間もあります。市街地では速度規制もありますし、高速道路とて都市部に差しかかれば速度が抑えられますが、基本的にはかなり高速ですよね。
たとえばアウトバーンの追い越し車線は、速度無制限区間であれば平均して150km/hオーバーで流れています。ポルシェやBMWの高性能モデルは、200km/hほどの速度で飛ばしています。最高速度の遅い小排気量のクルマは、つねにバックミラーに気を配っていなければ危険です。追い越し車線はハイスピードモデルが矢のように飛ばしていますから、軽はずみに乗り入れることも危険なのです。
初めてドイツに訪れる人は、その流れの速さに腰を抜かすかもしれませんね。追い越し車線は高性能なクルマだけに許されたものという意識も徹底しています。そんなマナーにも感心するかもしれません。
まあ、そんなドイツなのですが、今回僕はあえて、小排気量のフィアット「500C」でアウトバーンを走ってみました。すると、とても興味深いことに気がついたのです。
フィアット500Cは名車「チンクエチェント」の後継モデルであり、全長3571mm×全幅1627mm×全高1488mmのキャンバストップモデルです。試乗車が搭載するエンジンは直列3気筒ターボ+ハイブリッド、排気量は999cc、最高出力は70ps、最大トルク9.3kgm。日本の規格に当てはめるならば、軽カーよりやや大きいだけのボディに、軽カー並みのパワーを与えたにすぎないモデルなのです。とてもじゃないけれど、ポルシェやBMWが激走しているアウトバーンの追い越し車線を継続して走れるとは思えません。
前述したようにアウトバーンの一部区間は速度無制限です。トラックも走行が許されていますが、もっとも右側の走行車線のみに限定されています。速いクルマが正義であるかのような雰囲気もあるのです。日本のように速度の遅いモデルが追い越し車線を走行し続けることはありません。それは自殺行為だからです。
非力ながら意外とキビキビ走る
そんなアウトバーンを、わずか70psのフィアット500Cで走ったのですが、想像通り加速の鈍さに閉口しました。僕が現地の住まいにしているアパートの近隣にあるアウトバーンの出入口「カイザーゼッシュ」から乗り入れて約15km先の「ウルメン」まで、一度も床まで踏み込んだアクセルペダルを緩めなかったのです。
登り区間ではアクセル全開でも120km/hがせいぜいですから、ひたすら床踏みするだけです。下り区間では速度が高まってきますが、アウトバーンの流れを考えればそれでも高速ではありませんよね。ですから、アクセル全開のまま、3つの出口をやり過ごしてしまったのです。
それでも驚かされたのは、下り区間になればフィアット500Cでも最高速度180km/hを記録したことです。あくまでメーター読みですから実測は不明ですが、それでもフィアット500Cとしては驚きの速度です。日本の軽自動車のように速度リミッターは組み込まれていません。小さなコマネズミのようなフィアット500Cが180km/hで巡航している姿は滑稽だったと思います。
しかも、クルマは安定しているのです。180km/hではややキツく感じるコーナーもありますが、そこでも安定していました。一度速度を落としてしまうとリカバリーに時間がかかることは知っています。軽はずみにアクセルを戻せないという心理も働いていますが、ともあれ、アクセル全開で180km/hコーナリングしたのは(させられたのは)驚きでしたね。
フィアット500Cでアウトバーンを全開走行するなんてやや無謀のように感じますが、ギヤ比は最高速側に設定されていたわけですし、高速域でもコーナリング性能も安定。さすが欧州車だと思わせられました。
ドイツ旅行の際には、フィアット500Cをレンタカーに借りてみてはいかがでしょう。なかなかスリリングですよ。