グループA時代の伝説が、レストモッドとして蘇る!
グループA時代のDTM選手権のために開発された伝説のホモロゲートスペシャル、メルセデス・ベンツ「190 E 2.5-16 エボリューションII」を現代に復活させたレストモッド車「HWA EVO」。その概要が、2024年6月に初公開されました。創造主は、かつての伝説を担ったAMGのレジェンドたち。そしてドイツ初の試みとして、この7月22~24日に開催された本格的コンクール・デレガンスの公式オークションにて、初めて公衆の面前に姿を見せることになりました。
名作「エボII」を、現在のテクノロジーで復活
メルセデス・ベンツ「190 E 2.5-16 エボリューションII」は、1990年から1991年にかけて、当時のFIA「グループAスポーツ・エボリューション」規約が求める台数を少しだけ超える502台が生産され、もっとも記憶に残るホモロゲーションスペシャルの1台として、今日まで語り継がれている名作である。
この伝説的なマシンは、モータースポーツ現場のハードな条件のもと鍛え上げられた素晴らしいスポーツサルーンとして、全世界のエンスージアストの垂涎の的となっている。「DTM(Deutsche Tourenwagen Meisterschaft)」レースで衝撃を与えたツーリングカーと対をなすロードゴーイングカーとして活躍したことは、一定の年齢以上のカーマニアであれば、誰もがご存知のことだろう。
そんな伝説の担い手のひとりとして、DTM選手権でもっとも大きな足跡を残してきた「HWA AG」は、この2024年6月に、オリジナルの「エボII」を現代風にアレンジしたレストモッドモデルを製作・限定リリースすると発表した。
HMAは、かの「AMG」の創業者のひとりであるハンス・ヴェルナー・アウフレヒト氏が、ダイムラーのハイパフォーマンスブランド「メルセデスAMG」となったAMGから、レース部門とパーツ製造部門を引き受けるかたちで興した新会社。そして「HWA EVO」と命名されたこの新型車は、数々の伝説的なロードカーやレーシングカーを世に送り出してきたHWAの熟練エンジニアによって丹念に作り上げられた。
ベースはW201系190シリーズ
ベースとされるのは、メルセデス・ベンツのW201系「190」シリーズ。その基本骨格を生かしつつも、アイコニックな190E 2.5-16 エボリューションIIのデザインランゲージを受け継いで、新時代に向けて再定義したものとのことである。
カーボンファイバー製のボディ構造を採用した車重はわずか1350kgで、マニュアル6速ギアボックスをリアアクスル側に置くトランスアクスル配置により、50:50の前後重量配分を実現したとのこと。そして、フロントに搭載される3LのV型6気筒ツインターボエンジンの最高出力は500psで、最高速度は300km/hに達する。
さらにこの古くて新しいスポーツサルーンには、クライメートコントロールやLEDエクステリアライトなど、当代最新のクルマに求められる便利な装備も用意されるとのことである。
>>>メルセデスの専門誌「only Mercedes」のvol.220を読みたい人はこちら(外部サイト)
ドイツ初の本格的コンクール・デレガンスの公式オークションで初お披露目
6月に概要が公開された「HWA EVO」は、もともとはAMG生誕の地としても知られるドイツ・アファルターバッハにあるHWAの主要施設内で生産され、その製造工程は詳細に記録されることになっている。
とくにこのほど発表された個体は、そののち100台が生産予定であることを示す最初の1台となるため、製造段階においても特別な注意が払われるとのことである。
HWAアーカイブには原本が保管され、一部の書類には署名入りのコピーが添付される。第1号車はオプション装備なしで売り出されるが、購入者はHWAが製造枠の確保とファクトリーの空き状況を確認し次第、エクステリア/インテリアのカラーやその他の項目についてオーダー主と意見を交換し、車両の仕様をさらに発展させることができるという。
ただしオプションを選んだ際のエキストラは、このオークションにおける落札価格には含まれず、HWAから別途請求されることになる。
この種の少量生産メーカー/コンストラクターでは、生産モデルの第1号がメーカー側で保有されることが多い。でも、これまで「CLK-GTR Straßenversion(ストリートバージョン)」や「CLK-DTM AMG」、「SL65 AMGブラックシリーズ」などでも発露された、メルセデス・ベンツとAMGの歴史にその名を刻んできたHWAの「DNA」が創りあげた新生レストモッドHWA EVOは、その内容に相応しいステージで世界初公開されると同時に、販売まで行われることになった。
推定落札価格を上回り、落札
2024年7月末、ドイツ・バイエルンアルプスの山麓、テーゲルン湖畔の壮大なリゾートホテル「グート・カルテンブルン」を舞台として、じつに200台の新旧車両を集める「コンクール・オブ・エレガンス・ジャーマニー」が初めて開催されることになったのだが、RMサザビーズ欧州本社はそのオフィシャル企画として「The Tegernsee」オークションを開催。そして、約30台の出品車両の目玉商品として、このHWA EVOが選ばれたとのことなのだ。
今回のオークション出品に際して、HWAとRMサザビーズは「EVOは、現代的なパフォーマンス、快適性、安全性を実現する最先端技術を導入することで、象徴的なマシンを再定義しました。HWAが100台限定で生産するEVO第1号車を手に入れる絶好の機会です」というエンスー心をくすぐりそうな謳い文句とともに、70万ユーロ(約1億1700万円)~90万ユーロ(1億5000万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定。また、「コンクール・オブ・エレガンス・ジャーマニー」における展示を実質的なプレビュー(入札前の検分)として、入札は7月27日(現地時間)に締め切られることになっていた。
かくして、いわく「ドイツ初の本格的コンクール・デレガンス」に集まる、目の肥えた上級エンスージアストがHWA EVOにいかなる判定を下すのかが注目されていたのだが、実際にオークションの火ぶたが切られるとビッド(入札)が予想以上に殺到したようで、終わってみればエスティメート上限を40万ユーロ以上も上回る131万ユーロ、すなわち日本円に換算すれば、約2億1800万円で競売人のハンマーが鳴らされることになった。
この予想を遥かに超える高評価については、たとえドイツであっても「ご祝儀」的なニュアンスが介在したのかもしれない。それでも、やはりレース界の「生けるレジェンド」であるアウフレヒト氏が創ったレストモッド車への興味と期待こそが落札価格に結びついたと考えるのが、最も自然と思われるのだ。