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秋発売のスズキ「フロンクス」は走りにちょっと上級感!? 辛口モータージャーナリストがホンダ「WR-V」と乗り比べてみました

スズキ フロンクス:このクラスの日本車に多いCVTではなく、6速ATが与えられていることで、小気味よい走り感を付加していた

スズキから今秋発売のコンパクトクーペSUV、フロンクスのプロトタイプに試乗

人口14億人を超え、中国と並ぶ巨大市場となったインドで圧倒的なシェアを誇るスズキ。かの地で2023年春に発売されたコンパクトクーペSUVの「フロンクス」が、いよいよ2024年秋に日本で発売となります。国内仕様プロトタイプの試乗会にモータージャーナリストの斎藤慎輔氏が乗って行ったのは、同じくインド生産のコンパクトSUVであるホンダ「WR-V」。乗り比べて見えてきた、フロンクスのキャラクターとは?

インドで生産して日本に逆輸入するのがトレンドに

ホンダ「ヴェゼル」がマイナーチェンジ以降、販売絶好調だそうだ。半導体の供給問題の解消やサプライヤーの見直しなどもあって、生産が円滑に行えて納期問題が解消したことも大きいが、これは手頃なサイズ、手の届きやすい価格帯での、見た目がスマートなクーペSUVへの潜在需要の大きさを示したようにも思えている。

そういう意味では、秋に発売が予定されて、すでにティザーキャンペーンも始まり、メーカーから事前情報が発信されはじめているスズキ「フロンクス」は、全長を4m以下に抑えた、よりコンパクトなクーペSUVであり、まさに今の市場のニーズにハマりそうな雰囲気を漂わせている。

ちなみに、フロンクスのプロトタイプでの試乗会が開催されたのは今年6月上旬。なぜ発売よりこれほど前に多くの媒体を集めての大々的な試乗会を開催したのかと思ったが、考えてみたら夏休み明け前までは日本車の新型車投入が少なくなる時期だ。つまり、クルマにおいて話題にあがりやすい。広報戦略としては、なかなか賢いと思うが、「ジムニー5ドア」がインドからの逆輸入で日本で発売されそうといった、期待も込めた噂が広く出回っている中、そうじゃない、このフロンクスなんですよ、というような意味合いもあったのかもしれない。

このフロンクス、ジムニー5ドアとも同じくインド生産である。スズキは2016年にインド生産の「バレーノ」を日本で発売している。日本におけるインド生産車の正式販売として初でもあったが、当時はあまり話題にならなかったように記憶している。

けれども、最近では、それこそフロンクスと同じクラスでの勝負となるだろうホンダ「WR-V」もインド生産で日本に導入するなど、一番需要のある地域で作って日本には逆輸入して売るということが合理的であると判断されてきているようだ。

プラットフォームは日本未発売の2代目バレーノと共通

では、フロンクスの成り立ちをざっと。プラットフォームは2015年にアジア諸国で販売開始し、日本では2020年まで導入されていたバレーノを皮切りに採用されたもので、正確に言えば日本には導入されていない2代目バレーノと共通だ。ホイールベースも2520mmで同一、かつ全長が3995mmとバレーノ(2代目バレーノは3990mm)と同じところからしても、車体の基本骨格のあり方も基本的には同じと考えてよい。もっとも、この4m以下ギリギリに抑えられた全長は、インドの税制を考慮したものと知れば、なるほどと思える。

全幅は1765mmで、2代目バレーノより+20mm。もっとも違いのある全高は、それでも2代目バレーノ比でプラス50mmの1550mmと、SUVとしていわばギリギリの低い車高に留められているのは、日本の立体駐車場にまで配慮したものかどうかは聞きそびれたが、諸々使い勝手は良さそうである。

日本仕様のエンジンは1種類で、1.5L・4気筒自然吸気で、ISG(ベルトドライブでモーター機能付き発電機を作動)とごく小容量のリチウムイオン電池を備えたマイルドハイブリッド仕様。モーターとしての出力はわずか2.3kwだし、それによるサポート時間も発進時で最大30秒程度だが、それでも日常走行域での燃費向上には寄与する。

他の仕向地用には1L・3気筒直噴ターボ、1.2L・4気筒自然吸気の設定もあるようだが、トランスミッションとの組み合わせの中で、必然的にこのエンジンが選ばれることになったようだ。

ちなみに、日本独自の仕様として4WDを設定している点にある。フロンクスは、開発当初から日本での販売を考えていたとのことで、積雪地域では軽自動車からして4WDが選ばれることが多い日本では、やはりその存在は大きなプラスになる。同じインド生産でも、現地と同じFWDのみに割り切ったホンダWR-Vに比べて、日本市場への本気度がさらに高いように思わせる点だ。

スズキとしては異例ともいえる凝ったデザイン

フロンクス・プロトタイプの試乗会は、伊豆の修善寺にあるサイクルスポーツセンターのワインディング路(本来は自転車の走行練習、訓練用)を使って行われたが、じつはこの日ここへは、ホンダWR-Vをドライブして行ってみたのだった。この時点では詳細は知らされていなかったが、インド生産のコンパクトSUVであることはわかっていたので、ちょっとした対比にも面白いと思ったからだ。

この日の走行は合計3枠を得られたことで、走行第1枠は豪雨、そして第2枠は雨は上がったが路面はウエット、第3枠は快晴になり路面にところどころにウエットパッチはあるもののほぼドライという、変化に富んだ路面状況での確認が可能だった。

初めて実車に対面した際の印象は、小さいサイズの中で上手くクーペSUVとひと目でわかるスタイリングを得られているということと、一方でアクが強めの造形によって強い印象をもたらす反面、フロントまわりやリアまわりに関しては、とくに欧州系のブランドの車名がなんとなく浮かぶような、そんな思いも無くはなかった。ただ、インドでは、そのデザインに対しての賞をこれまで数多く受賞しているとのことなので、向こうの市場の指向には強く合致しているということかもしれない。

インテリアも、インパネまわりからフロントドアトリムにかけては、かなり複雑な立体的造形を採用している。素材も色使いも従来のスズキの在り方からすれば凝っていることがすぐに知れるが、煩雑といった感もありつつ、このクラスとして立派にあるいは華やかに見せながら、SUVらしい機能感も備えるものとなっているとは思えた。

フロントシートは、サイズ的には不満はないものの、今回のようなワインディング主体のコースでは、ショルダーのホールド性に心もとない感が生じるのは仕方がないところか。一方、快適装備として、シートヒーターを早い時期から軽においても、それも廉価グレードから標準装備化を進めていたスズキらしく、当然のごとく与えられているのは、スイッチの存在で確認している。

電動パーキングブレーキや全方位モニターなどの安全装備もポイント

ちなみに、WR-Vでこの場にやってきた身として、すぐにフロンクスが1枚上手と思えたのは、電動パーキングブレーキが備わっていることだった。WR-Vは、手動レバー式のパーキングブレーキを採用することから、せっかく標準装備のACCも、停車までの前車追従の機能がないため、30km/h以下での使用はできない。機能をオンにして走行している場合も、25km/hまで速度が落ちるとオフになってしまう。対して、フロンクスは全車速追従ACCが標準装備で、低速や渋滞路等でもその役割を果たすこと、これによって使用できる範囲も使用時の安全性も高まる。最新モデルを選ぶという意味合いも、こういう安全快適装備の存在が大きいものだ。

インパネセンター上部に存在感大きく鎮座する9インチディスプレイは、標準装備というナビゲーションとともに、スズキコネクト、スマートフォン連携機能、表示できる車両情報などは新型「スイフト」や最新「スペーシア」などにオプション用意されるものと同じようだが、いずれにも共通で好ましいのは、全方位モニターを備えていること。

必要に応じて車両の周り360度をモニター画面で確認できるのはもちろんだが、エンジン始動直後にはまず車両の周り360度をカメラによる映像を合成してグルリと回るようにして映し出す。この機能はそれこそ発進前からの安全性能ともいうべきもので、フロンクスのようにここまでを「標準装備」にしているのは、このクラスでは他に思い当たらない。

ステップシフトの6速ATがちょっとした上級感をもたらす

走り出すと、アップダウンに富む試乗コースということもあって、エンジン的にはパワー面でも強い印象を残すようなことがなく、また、なめらかでスムーズだとか、音色が心地よいとか、そういった面においては平凡に思えるものだった。いわば実用エンジンの典型といった性格なのだが、トランスミッションがこのクラスの日本車に多いCVTではなく、6速ATが与えられていることで、なんとなく小気味よい走り感を付加することになっていた。

エンジンの効率の良い領域を使うという面ではCVTは優秀だが、エンジン回転の変化と加速度がリンクしないこと、エンジン音がちょっとした負荷で捉えどころのない変化を繰り返すなど、個人的にはCVTは人の感性に沿った心地よい走り感はなかなか得られにくいと考えている。

ただ、世界の中でも、軽自動車はもちろん、日本車はトヨタのハイブリッド(THS2)の電気式CVTなどとも合わせ、CVTの採用車が突出して多いことから、このフィーリングに慣れてしまっている人も多そうだ。

思えば、フロンクスは日本メーカー製であっても輸入車。ここは異論もあることを承知のうえで言わせてもらうが、CVTではなくステップシフトの6速ATを採用しているという時点で、ちょっとした上級感をもたらす、というイメージは抱いている。

なにより、ホンダWR-Vで、日常域はスムーズで悪くないが、途中のワインディングではエンジン回転を自分の意思通りに保てないCVTがもたらす曖昧さ、もどかしさを味わってきた直後だけに、多段ATとの組み合わせが、クルマを操る感や意思疎通では数段上になると思わせるのだった。

さらにパドルシフトを備えることも、望む時に躊躇なくダウンシフト操作を行えることや、その際の減速度もギアに応じた選択度が高いことなども好ましいと思える。ただし、WR-Vに関していえば、CVTだが擬似多段化を可能にするパドルシフトも備えていることで、こと減速時のエンジンブレーキの使い勝手はなかなか優秀だった。

接地感を手のひらで感じられるステアフィール

今回の試乗では、速度制限と原則としてタイヤのスキール音を生じさせないといった条件が求められていたことから、操縦安定性に関しての評価範囲は限られていたが、その中で感じ取れたことは、このクラスとしてステアリングは操舵力、手応えともに重めなことで、それもあってスーと向きを変えるような軽快感よりも、接地感を手のひらに感じながらノーズの向きを変えていく感覚が強いことだった。

ここは、フロンクスの走りをまとめた開発ドライバーが、「完全に私の好みで決めさせてもらいました」とのこと。これを聞いた時に「そういうのが大事」と思ったのは、走りにもキャラクターを持たせることが大切だと思っているからだ。

ただ、最近の欧州車も含めて操舵力がどんどん軽くなってきている傾向の中では、走り出した直後は、ステアリングが重めだなと思ったのも事実で、ウエット路面では安定感として捉えることができる一方、ドライ路面になってくると、手応えのしっかり感と、ちょっと重いなという印象が混ざることがあった。

FWDと4WDの違いに関しては、車重差が60kgに過ぎないのだが、4WD仕様はわずかだが動き出しに重い感じをもたらす。4WDはプロペラシャフトで後輪へ駆動を伝えるベーシックな機構で、前後の駆動力配分もビスカスカップリングによる。だが、4WD仕様にはヒルディセントコントロールまで備わるなど、配慮も行き届いている。

ヘビーウエット路面からの試乗開始だったこともあり、上り勾配にタイトターンも多いこのコースでは、トラクションは圧倒的に4WDが優れていたのは言うまでもないし、安定して走りやすかったのだが、路面が乾いてくるに従い、FWDの素直なハンドリングが好感をもたらすようになってくる。

ただし、FWD仕様においては、ドライ路面でもコーナーへの進入、あるいは旋回中にも、明らかにまだ安全圏と思えるところで、過剰にESCによるブレーキ制御と出力制御が介入してくることを多く経験した。開発ドライバーも「このコースでその現象は現認できているので、制御を含めて確認する」とのことだった。こういう時、発売まで間があるのは幸いというべきだ。

この仕上がりなら新たな市場を切り拓く可能性あり

タイヤサイズは195/60R16 89Hと、カッコ重視のクーペSUVながらも無闇に低偏平大径化していないのは、インド等主要仕向け地の事情なのか、車両側の都合なのかは不明なのだが、最小回転半径にこだわったという話はあったので、そこが関係しているのかもしれない。ちなみに最小回転半径はFWD、4WDともに4.8mで、全長もホイールベースもより短い新型スイフトと同等を確保しているのはたしかに立派だろう。

全長4m以下というコンパクトサイズでのこのクーペSUVは、その仕上がりからも日本でも新たな市場を切り開く可能性を感じさせたが、とくにこのクラスにおいては価格が重要なファクターだ。

開発担当者に予定価格を訊ねても、この時点では当然答えてもらえなかったが、逆に「おいくらくらいなら良いと思います?」と聞かれたので、「FWD仕様、この装備内容で250万円くらい」と答えさせていただいたのだが、最近の情報では、どうやらまさにそのあたりらしい。これはちょっと面白くなるかもしれない。正式に発売された車両での試乗が待ち遠しく思えている。

■specifications

SUZUKI FRONX Prototype(2WD・6AT)
スズキ フロンクス プロトタイプ(2WD・6AT)

・全長:3995mm
・全幅:1765mm
・全高:1550mm
・ホイールベース:2520mm
・車両重量:1070kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHC
・排気量:1460cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:FWD
・変速機:6速AT
・エンジン最高出力:74kW(100ps)/6000rpm
・エンジン最大トルク:135Nm/4400rpm
・モーター最高出力:2.3kW(3ps)/800-1500rpm
・モーター最大トルク:60Nm/100rpm
・燃料タンク容量:37L
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット、(後)トーションビーム
・タイヤ:(前&後)195/60R16

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