落札価格は100万円以下だけど、これはイレギュラーな安値……?
アイコニック・オークショネアーズ社は、2011年に「シルヴァーストーン・オークション」として創業。2023年8月に現在の屋号に改組して再スタートを図ったという、自動車オークションビジネス界では比較的新興勢力ともいうべき会社である。同社では、毎月末に期間限定のオンラインオークションを開催しており、2024年6月のオークションでは20日に入札スタート。1週間後の27日の午後7時に締め切られる設定とされた。
今回の「The June Online Timed Auction」に出品されたW124は、もともとアフリカの某国大使館がイギリス国内で公務に使用するためにオーダーしたもので、グレードは当時の最上級モデルである「300E」。最高出力180psを発生する3LのフューエルインジェクションM103型直列6気筒SOHCエンジンを搭載している。
また、この時代からのメルセデス・ファンには懐かしいベロアのインテリアトリムを特徴とするかたわら、クライメートコントロール(エアコン)やサンルーフのオプションは選んでいない。また、オリジナルの「ベッカー」社製カーステレオが残されている。
いっぽう、このモデルから採用された特徴的な15穴ディッシュ型アロイホイールは、ドイツのマンホールや排水口の蓋に似ていることから「ガリデッケル(Gullideckel)」または「マンホールカバー」の愛称で呼ばれる1980~1990年代メルセデスの視覚的特徴。この個体では、仏ミシュランの良質なタイヤと組み合わされている。
走行距離は約40年間で15万9000キロ
その40年近くにおよぶ生涯で、9万9240マイル(約15万9000km)を走破してきたものの、平均的な日本人ユーザーはまだしも、欧州のメルセデス・ファンならば、きっとこの走行距離でも大したことはないと考えるかもしれない。
車両に添付される膨大なヒストリーファイルには、8万7000マイルまでのサービス履歴が記録されており、そのうち最初の6万8000マイルはメルセデス・ベンツの正規ディーラーで行われたものである。近年ではブッシュやサスペンション・トップなど、足まわりのリペアに大きな費用が投入され、オリジナルの乗り心地を取り戻したばかり。オリジナルの販売パンフレットとブックパック、3つのキーが付属しているとのことであった。
そして今回のオンライン入札に先立ち、アイコニック・オークショネアーズ社と現オーナーは6000ポンド~8000ポンド(約114万円〜152万円)という、かつて「中古車」だった時代に比べるとかなり高め、「ヤングタイマー」としてはリーズナブルにも映るエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、6月20日にビッド(入札)が解禁となっても価格は思ったように伸びず、スタートから1週間後、6月27日の締めきりでは5063ポンド、現時点のレートで日本円に換算すれば約97万円という、かなりリーズナブルなプライスのまま落札されることになったのだ。
ただ今回の落札価格は、ブルーノ・サッコ氏が考案したとされるボディサイドの保護プレート、通称「サッコプレート」を持たない初期モデルのミディアム・メルセデスとしては、かなり安価であるのも事実。個体コンディションに問題があるのか、あるいはオークションに起こりがちな「イレギュラーな」事象とも考えられる。
ともあれ、洋の東西を問わず「底値」と呼ばれる時期はすでに脱し、近ごろマーケットに姿を見せるようになったレストア済みのW124セダンでは500万円前後のものも珍しくはなくなっていることから判断しても、まさしく今こそが「中古車」から「クラシックカー」へと移行する過渡期にあることは、ご記憶の片隅に留めておいていただきたいところである。
>>>ネオクラシックを特集したメルセデスの専門誌「only Mercedes」のvol.221を読みたい人はこちら(外部サイト)