フェラーリが新プラント「e-ビルディング」を建設した目的とは?
フェラーリの新たなプラント「e-ビルディング」がイタリアで完成しました。テクノロジーツールとしての役割、新製品を市場に送り出す時間の短縮、そして生産段階におけるカーボンニュートラルの実現が目的とされています。現地マラネロ発表会に参加した筆者が、新プラントの真の役割を考察します。
生産キャパシティを増やすことが目的ではない
電動化への道はあのフェラーリにとっても避けがたく、2022年に行なったキャピタル・マーケット(投資家向けの発表会)では「2025年までに初のフル・エレクトリック・フェラーリを発表する」方針を明らかにしている。そうしたなか、彼らがマラネロに新施設「e-ビルディング」を竣工したと聞けば、ここがEVの生産拠点になると推測するのが自然な流れだろう。
ただし、その推測が完全に正しいとは言いがたい。なぜならば、EVの生産だけに留まらない幅広い役割がe-ビルディングには期待されているからだ。完成したばかりのe-ビルディングで行なわれた発表会において、フェラーリのベネデット・ヴィーニャCEOは次のように述べている。
「なぜ、フェラーリはこの新しいビルを建てたのか? 少なくとも、生産キャパシティを増やすことが目的ではない。その主な理由は3つある。ひとつはテクノロジーツールとしての役割。生産設備の柔軟性を高めることにより、パーソナライゼーション(顧客のオーダーに応じてカラーや素材、パーツなどを細かく変更する作業のこと)をさらに充実させることを目指した。
2番目は、新製品を市場に送り出す時間の短縮。現状では、少量生産するニューモデルの開発と生産体制の準備を同時に行うことは難しかったが、e-ビルディングにより、これが可能となる。
3番目は生産段階におけるカーボンニュートラルの実現。このビルの屋上には3000枚以上のソーラーパネルが据え付けられており、最大1.3MWの電力を生み出せる。これでも足りないエネルギーはグリーン電力で補う。さらに、バッテリーやモーターをテストする際に用いられるエネルギーは、その60%以上が回生され、工場内で活用される」
既存の生産設備を閉じることはない
3番目の理由であるカーボンニュートラルを実現するうえで重要な役割を果たしたのが、e-ビルディングをデザインしたマリオ・クチネッラだ。2025大阪・関西万博におけるイタリア館を設計したことで一躍、脚光を浴びたクチネッラは、イタリアを代表するサステイナブル建設の第一人者。彼がこのプロジェクトに関わることで、大幅な省エネ化が可能となり、カーボンニュートラルが実現できたという。また、自然光を多く採り入れた室内は明るく、作業空間が広々としているなど、作業環境の大幅な改善が図られたのもクチネッラの貢献といえる。
ヴィーニャCEOのコメントを捕捉すれば、e-ビルディングの新設に伴って既存の生産設備を閉じることはないという。したがって、全社的にみれば生産キャパシティは確実に拡大するが、それを生産台数の増大に役立てることなく、デザインや生産に手間がかかるパーソナライゼーションに費やすというところが、ヴィーニャCEOのコメントでもっとも注目される点である。