スラントノーズ? フラットノーズ? それともフラッハバウ?
空冷時代のポルシェ「911 ターボ」に設定され、ごく少数が限定生産された「スラントノーズ」ないしは「フラットノーズ」、時にはドイツ語で「フラッハバウ」と呼ばれる特装スペシャルカーたちは、現代の国際クラシックカー市場にも姿を見せることがままあります。2024年6月28日~30日、名門「ボナムズ・オークション」社がスイス西端のリゾート、シェゼレックスの「Golf & Country Club de Bonmont」を会場として開催した「THE BONMONT SALE」オークションでは、クラシックカーや近代スーパーカーなどが数多く出品されたなか、1987年に限定生産された元祖ポルシェ本社製「フラッハバウ」の姿もありました。
世界限定50台+αが生産されたフラットノーズ特装車
1970年代の後半、フラットノーズ化したポルシェ「935 ターボ」が、グループ5シルエット・フォーミュラの最強マシンとして、FIA世界選手権や北米IMSA選手権などのスポーツカー耐久レースにて圧倒的な覇権を謳歌。世界中のファンを魅了したことは、半世紀近い時を経た現在においても有名な史実であろう。
そして、そのイメージをロードカーとしての「911」にも投影したモディファイが、1970年代末ごろに「928」を思わせるポップアップ式ヘッドライトを持つスペシャルモデルを製作・販売した旧西ドイツ・フランクフルトの「b b」社など、ポルシェ社外のスペシャルコーチビルダーの手によって行われることになる。
これらのカスタム911はきわめて高価ながら、一定の成功を収めることができた。とくに、独自のボディを持つ「935 ターボ K3」でル・マン制覇も達成した「クレーマー・レーシング」は、1981年からポルシェ本社のカスタマー部門にコンバージョンキットとして少数ながら供給し、さらに1986年には特別な930ターボを求める顧客のための公式オプションとなったという。
そして同じ年の秋、名作930系「911 ターボ」のフィナーレを飾る限定モデルとなるべく、後期型911ターボ用エンジンを330psまでチューンして搭載し、リトラクタブル式ヘッドライトを持つフラットノーズや、エアベント付きリアフェンダーでモディファイした初代「ターボS フラッハバウ」が、ポルシェ公式の1987年モデルとして登場し、930系の終了と同じ1989年ごろまでに、世界限定50台+αが生産されたといわれている。
ちなみに、こののち911シリーズが「964」系に進化し、その964系も次世代、そして空冷911最終型の「993」系へとバトンタッチする直前の1994年モデルから、ポルシェはファイナルモデルとして「ターボS」を用意したが、この時も特装スペシャルモデルとして76台のフラッハバウが製作されている。
つまり930世代のフラットノーズ特装車は、ポルシェ公式フラッハバウの開祖というべきモデルだったことになるのだ。