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マツダ「ルーチェ」が「広島ベンツ」と呼ばれたのはなぜ? サウンドセレクターに「演歌」を用意し「Sクラス」の上をいってた!?【カタログは語る】

マツダ 5代目 ルーチェ ロイヤルクラシック:4ドアセダンとハードトップが用意された。写真はセダン

イタリア語で「光」や「輝き」を意味する車名を持つ

マツダ「ルーチェ」というと、「なんて懐かしい車名だろう」と思う人は少なくないはず。ただし5世代のモデルが存在し、ルーチェと聞いてその中のどの世代を思い浮かべるかは、世代や好みによって違うでしょう。イタリア語で「光」や「輝き」を意味する「ルーチェ」は、マツダの乗用車ラインアップの頂点に位置するクルマとして誕生しました。25年間にわたって愛されたルーチェをカタログとともに振り返ります。

マツダ車の頂点に位置するクルマとして初代誕生

さしずめ筆者がルーチェで思い出すのは、1966年に颯爽と登場した初代。なんといっても当時ベルトーネに籍を置いていたジョルジェット・ジウジアーロが手がけたスマートなスタイルは当然ながら日本車離れしていた。もっといえば筆者が小学校の高学年だった時に担任のH先生が、なんとシルバーのスポーティグレード「SS」に乗っており、学校が神奈川県西部だったため、冬休みや春休みに箱根にドライブに連れていってもらうのをたいそう楽しみにしていた……そんな思い出と重なるクルマでもある。

ルーチェは5世代あったが、振り返ると世代ごとの脈絡が薄いクルマでもあった。1972年登場の2代目はロータリーエンジンを積みアメリカンなスタイルだったし、その後継だった3代目は縦2段の角形4灯ヘッドライトを特徴としたが、ピラードハードトップのキャビンまわりはトヨタ「クラウン」4ドアハードトップ似。続く4代目は前衛的なスタイルに12A型ロータリーターボを搭載するなどし、その速さが話題を集めたりした。

そして1986年に登場したのが、後に後継車の「センティア」にバトンを託すこととなる、ルーチェとしては最終型となった5代目。このモデルの特徴は、ピニンファリーナのショーカーかアストンマーティン「ラゴンダ」あたりに匹敵するのでは? と思えたスタイリッシュ・コンシャスだった4代目から打って変わり、セダンもハードトップも完全にコンサバ路線に引き戻された点だった。あるいは1世代あいだに挟んだ3世代目に戻ったのでは? とも思える、非常にオーソドックスな姿に生まれ変わったのが特徴といえた。

記憶が正確ではないかも知れないが、とくにセダンなど新車としてタクシーとして下ろされた瞬間から、もう何年も前から駅前で乗り場の車列に並んでいるクルマのように感じたように思う。

広島ベンツと呼ばれた理由とは

その一方でセールス的にもセダンに較べ圧倒的に人気が高かったのがハードトップだった。今、筆者の手元に残してあるのは1986年9月とある「ルーチェ ロイヤルクラシック」のカタログで、その後ユーノスチャネルのカタログでも見られた縦300mm×横296mmのほぼスクエアサイズのもの。

ベージュの表紙にエンボスの縁取りが入り、車名とMAZDAのロゴだけが印刷されたシンプルというかあくまで上品な仕上げになっている。で、表紙を開くと「ここに、我が心のプレステージ。」のコピーと、対向ページにはハードトップのフロントマスクを切り取った写真が載せられている。まあ、いかにもブランデンブルク協奏曲がBGMに似合いそうなタッチである。

さらにページを捲ると、問題の4ドアハードトップの自動車媒体の業界用語で言うところの前後7:3の写真が出てくる。問題の……などと思わせぶりに書いたのは、この4ドアハードトップが当時のメルセデス・ベンツ「Sクラス(W126)」に「なんか、似ている」といわれたから。4ドアハードトップはボディの下半分がグレーに塗り分けられていて、その手法はSクラスと同じだったし、いくぶんか丸みをもたせたルーフラインなども然り……だった。

じつはこのカタログを最初に眺めた時から38年経った今、この原稿を書きながら改めて同じカタログの同じページを眺めてみると「よくよく見ればそうでもなかったかもね」とも思えるのだが、それくらい当時はSクラスの存在感が大きかったということだったのかもしれない。

演歌専用のボタンを設置

他方で日本車らしくSクラスの上を行っていたのが、装備の充実度だった。中でも当時、瞳孔を大きく見開かさせられたのが、オーディオシステムだった。実車にはホームオーディオと同じ正立式カセットデッキがセンターコンソールに標準で収められていたのだった。

このデッキは「サウンドセレクター付き」が謳い文句で、5つの周波数特性がプリセットされ、選んで聴けるようになっていたのだが、その内訳はJAZZ/CLASSIC/ROCK/ENKA/VOCAL。筆者は一応オーディオマニアでもあるが、「Eは演歌!?」と、この表示を最初に見つけた時の驚きは38年経った今でも忘れられない。これぞ日本車の装備……! と、思わされたものだった。

装備でいうと他にもリアセンターアームレスト内に収納可能な自動車電話、缶ジュース5本が入るリアトレイのクーラーボックス、空気清浄機、後席パワーシート、電子メーターといった、当時としては贅を尽くした装備の数々も与えられた。新開発の2L V6エンジンと13B型ロータリーエンジン、電子制御サスペンションなどにより、走りに関しても当時のマツダのフラッグシップに相応しい快適なものだった。

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