現代の路上にも耐えうる装備と、サーキットでの速さの両立を狙った1台
今回のオークション出品者である現オーナーは、オリジナルの1960年代のレーシングマシンをできるだけ忠実に再現することを意図しており、多くの時間と労力をかけて、正しいパーツや純正オリジナルパーツを調達した。ディテールの細かさは見てみないとわからないものながら、この個体は他を圧倒しているとのことであった。
たとえばアイテムにはオリジナルどおりのボディ固定クリップが含まれるが、これはライトニング戦闘機を壊してしまった人から入手した。ドアハンドルは多くのレプリカのようにビレットから削り出したものではなく、オリジナルと同じく鋳造品である。また、フューエルフィラーも同様で、オリジナルの鋳造品が使用されている。
左右のドアミラーは古いジャガーと共用だが、オリジナルGT40と同様に取り付け部が変更されている。リアウイングの標識灯は、本物のランカスター爆撃機の標識灯である。
ホイールも純正のノックオフ軽量ワンピース(PSE)にアルミ製スピンナーを装着。「エイボンCR6ZZ(前215/後295)」タイヤはサイドウォールの高い、当時を彷彿とさせるルックスながらも最新のコンパウンドが組み込まれ、ドライでもウエットでも驚異的なグリップを発揮する。
また、リアカウルはカーボンファイバー製のものを装備し、リアの重量を大幅に軽減。アルミブロックと組み合わせることで、ほぼ完璧な重量配分を実現している。
興味深いことに、オリジナルのフォードGT40はグラスファイバー製だったが、ル・マン優勝も果たした最強のプライベーター「JWEガルフ・レーシング」のGT40は、剛性を高めることを目的として、当時はまだ珍しかったカーボンファイバーを初めて採用したとされている。
16年前に完成したレプリカ車としては強気なエスティメートを設定
フロントのウインドスクリーンにはヒーターが装備されているが、これもレプリカ車としては初めてのことで、特許が切れるごく最近まで本家のフォード版だけがヒーターつきスクリーンを装備していた。蛇足ながらオリジナルGT40では充電システムの能力に限界があり、ル・マンではドライバーがうっかりスイッチを入れたために、エンジンが停止してしまうトラブルも発生したそうだ。
そして、いかにも現代のレプリカと感心させられるのが、大きなガラス張りの小さなコクピットには欠かせないエアコンが装備されていること。フロントカウルに設けられた「NACAダクト」も機能的で、ダッシュボードの目玉型エアダクトに冷気を供給する。ダッシュ中央の吹き出し口も同様に機能している。だからクルマが動いてさえいれば、これらすべてが組み合わさり、夏の暑い日でもコクピットを涼しく保つことができるという。
さらに現代的な利便性への隠れた配慮として、各ドアポケットにはシガーライターソケットも設けられていた。
この現代的かつオリジナリティを究めたGT40で、現オーナーはフランスのアングレームやポー、シャンパーニュなど、そして英国中を旅した。また、そんなツーリング用のラゲッジスペースを拡大するため、2つの特注バッグが作られた。1つはフロントのエアインテーク下に、もう1つはパッセンジャーの脚の下にフィットするもので、シートの後ろの三角形の隙間にはさらに2つのラゲッジスペースが設けられている。
この魅力的に仕立てられたサザンGT40に、ボナムズ社営業部門は8万5000ポンド~12万ポンド(約1509万円〜2250万円)という、16年前に完成したレプリカ車としてはかなり強気にも見えるエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが、やはりというべきか出品者側の思惑ほどにはビッド(入札)が伸びなかったようで、終わってみればオークショネア側に支払われる「プレミアム(手数料)」込みでも、エスティメート下限にようやく届く8万6250ポンド。すなわち日本円に換算すれば、約1617万円で落札されることになったのである。