ジャガーXJ-Sをチューンアップした、知られざるコンプリートカー
毎年7月、英国ウエストサセックス州チチェスターで開催される「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード(FoS)」は、世界最大級と称される自動車のお祭り。昨今の世界的イベントの例にもれず、オフィシャルオークションも催されますが、その重責を委ねられた名門ボナムズ社の「Goodwood Festival of Speed」オークションでは、誰もが認める素晴らしいクラシックカーにくわえて、ちょっと変わり種、あるいはマイナー好みともいえるクルマたちも見受けられました。今回はそのなかから、英国のレース史に輝くコンストラクターが製作したコンプリート・チューンドカー、リスター・ジャガー「XJ-S 6.0」を紹介します。
じつは老舗のレースカーコンストラクター
「リスター・ジャガー」は、とくにイギリスのスポーツカーレースの歴史においては、もっとも輝かしい名前のひとつと称されている。
ケンブリッジの鉄工所社主で、レーシングドライバーとしても活躍していたブライアン・リスターによって設計・製作。ジャガーXK型6気筒DOHCエンジンを搭載したレーシングスポーツは「ノブリー(Knobbly)」というニックネームを授けられ、1957年シーズンのスポーツカー英国内選手権において、「隻腕の名手」として知られたアーチー・スコット・ブラウンの操縦で、「ブリティッシュ・エンパイア・トロフィ」制覇をはじめ連戦連勝の大戦果を挙げることになった。
開祖ブライアンの没後、家族に託されたリスター社は、1986年にエンジニアのローレンス・ピアースによって買収され、サリー州レザーヘッドに拠点を置く「リスター・カーズ社」として復活。「BLEオートモーティブ」および「WPオートモーティブ」との契約により、同時代のジャガー「XJ-S」を「リスター・ジャガー」に改造したモデルとして製作・販売し、リスターの名は世界最速のロードカーとして、再び世に知られることになる。
ローレンス・ピアースのエンジニアリングの意見を取り入れ、新生リスターが開発したXJ-Sには6LのV12エンジンと2基のスーパーチャージャーが搭載された。その結果、最高出力は488psまで引き上げられ、XJ-Sは一躍スーパーカーの仲間入りを果たした。
そのパフォーマンスに適応するため、サスペンションやブレーキ、ホイールもアップグレード。さらに、アグレッシブなボディキットと豪華なレカロ製レザーインテリアも与えられることになったが、代償として1988年当時の価格は8万8000ポンドにものぼった。
そして1995年まで進化を遂げた「マークIII」、なかでもフルハウスのコンバージョンを施したモデルは、ドナー車両の価格に加えて5万3505ポンド+VAT(付加価値税)という驚異的なプライスが設定されたものの、それでも約90台にもおよぶリスター・ジャガー XJ-Sが製造されたといわれているのだ。