アバルト595は試乗経験あるけどフィアット500は未体験……
2024年5月に日本向けモデルの生産終了が発表されているフィアット「500」。2007年のデビュー以来、ロングセラーとして日本でも愛されてきましたが、じつは20代の若手自動車ジャーナリストの筆者は、アバルト「595」には試乗したことがあるものの、フィアット500には乗ったことがないのでした。そこで、イタフラ車に多く触れてきたAMW編集部の竹内氏と「さよなら試乗」ということで、フィアット500でロングドライブを敢行することにしました。
素の「500」って意外と触れてない?
夏まっただ中な8月の試乗当日は、朝9時前でもとても暑かった。そんな暑さを反映するかのような、鮮やかな赤いボディカラー「パソドブレ レッド」を身にまとったフィアット「500 1.2カルト」が集合場所にやってきた。
AMW竹内「おはようございます。お待たせしました」
西川「おはようございます。メタリックやパールが普及した今だと、これだけ明るいソリッドの赤は珍しいですね」
AMW竹内「たしかに、日本車やドイツ車じゃ最近はあまり見かけない色ですね。明るいソリッドの原色系のボディカラーは、ラテン系らしさが表れている感じですよね」
そんなエクステリアへの印象を喋りつつ、さっそく移動開始。まずはAMW竹内氏の運転でスタートだ。
AMW竹内「いやぁ、じつは私も素の500は久々ですね。時々アバルトは乗る機会があったのですが、もしかしたら素の500は4~5年振りかもしれません」
西川「自分も同じです。アバルトは何回か乗ったことあるんですけど、素の500はじつは今回が初めてです。それにしてもなんだかこのトランスミッション、変速ショックがあるというか、クセがありそうな感じですね」
AMW竹内「そうなんですよ。日本車に多いシームレスなトルコンATとかCVTとかに慣れてしまうと、この“デュアロジック”は最初、戸惑うかもしれません。でも慣れると500と息を合わせて一緒に走るような感覚になってくるし、キャラクター性も相まってか、このクルマならそんなトランスミッションも許せてしまうんですよねぇ」
西川「変わらないことへの評価というか、許せてしまう愛くるしさというか、そういった可愛げがあるブランド力を持ったクルマって、なかなか国産車にはないですよね。デザインアイコンとなった2代目ヌォーヴァ500の存在があるからこそなんだろうなぁ」
高速道路では驚きの安定感
そんなトークをしながら高速道路へ、途中のサービスエリアでドライバーチェンジ。筆者にとっては初のフィアット500ドライブとなった。
西川「やっぱり高速道路では何もしないとやや非力な感じですね。高速巡行でもマニュアルモードで4速と5速を使い分けた方が、快適にクルーズできますね。でもコンパクトなボディでも高速で安定感があるのは、ヨーロッパ車らしい感触です」
AMW竹内「たしかに非力だけど、高速域でもちゃんと真っ直ぐ走ってくれる感じですよね。思えば最初の500はクルーズコントロールなんて付いてなかったけど、今は付いているんですね。でも今じゃACCが当たり前になったから、これでも古さは感じますね。最初なかった装備で言えば、パドルシフトもそうですね」
西川「この500を買う人には、クルマを買ううえで最も大事な要素がデザインだという人も多いでしょうから、最新のADAS(先進運転支援システム)ではないことなんて、微々たる問題なんでしょうね」
ワインディングは飛ばさなくても楽しい
フィアット500は高速道路で移動し、昼食を食べてから今度はワインディングを主体に移動した。
西川「アップダウンがあるワインディングだと、マニュアルモードを使ってトルクバンドをしっかりとキープしたくなりますね。トランスミッションにクセがあるからか、変速の時に一瞬アクセルオフをしたいので、リズムを取るためにパドルシフトよりもシフトレバーを使いたくなります」
AMW竹内「分かります。パドルシフトは付きましたけど、ついついシフトレバーに手を伸ばしてしまいますね。あと、エンジンは他に2気筒0.9Lのツインエアもありますが、この1.2Lの4気筒の方がトルクの出方とかが日常ユースには向いていると思います。ワインディングの上りなどではとくにそう感じますね。ツインエアのドコドコ感も味があって良いんですけど、日本で乗るなら1.2Lの方が一般には乗りやすいかと」
西川「それとワインディングは結構楽しいですね。ステアリングフィールに安っぽさがなくてしっかりしていますね。目を三角にして攻める気持ちは全然沸いてこないですが、このクセのあるトランスミッションをスムーズに操作して、綺麗に荷重を前後左右に移動させてなめらかに走らせたくなるような、そんな楽しさがあります。飛ばさなくても楽しいクルマですね」
AMW竹内「ステアリングが割としっかりしていて、ちゃんとインフォメーションがあるんですよ。アバルトと違って特別な高揚感はなくても、しっかりと運転する愉しさがありますよね」
素の500は「マルゲリータ」?
こうしてあらゆるシチュエーションで試乗をしたフィアット500。道中には日本特有の狭い道もあったが、5ナンバーサイズのフィアット500では、そんな道も苦労することなく通り抜けることができた。
西川「なんというか、カッコつけて表現するとこのフィアット500、マルゲリータみたいなクルマですね」
AMW竹内「ほう、その心は?」
西川「このクルマをベースにアバルトの595や695があるわけじゃないですか、それってフィアット500っていうマルゲリータピザに、ハムとかサラミとかいろんなトッピングを足していっているみたいだなぁって。でもマルゲリータそのものの美味しさもあるから他のピザの美味しさも際立つみたいな」
AMW竹内「たしかに、この500や、アバルトも含めた500シリーズってそういうところあるかもしれません。目新しい特別な装備やメカニズムはないのに魅力的に仕上げるあたり、シンプルなものをベースにありふれた食材で美味しい料理に仕上げるイタリアンの雰囲気と似ていますね。そう考えるとベースとなる素の500がマルゲリータなのは言い得て妙かもしれません」
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フィアット500に初めて乗った筆者にとっては新鮮な、そしてイタリアン・コンパクトの奥深さを実感する試乗となった。すでに後継モデルとなるBEVの「500e」が販売されている現在、冒頭でもふれたとおり、ガソリン版フィアット500は正規ディーラーの在庫が無くなり次第、販売終了となる。新車で買うラストチャンスということで、気になる人はぜひ一度は触れてみるといいだろう。
■specifications
FIAT 500 1.2 CULT
フィアット 500 1.2カルト
・車両価格(消費税込):259万円
・全長:3570mm
・全幅:1625mm
・全高:1515mm
・ホイールベース:2300mm
・車両重量:990kg
・エンジン形式:直列4気筒SOHC 8バルブ
・排気量:1240cc
・エンジン配置:フロント
・駆動方式:FWD
・変速機:ATモード付5速シーケンシャル(デュアロジック)
・最高出力:51kW(69ps)/5500rpm
・最大トルク:102Nm/3000rpm
・燃料タンク容量:35L
・公称燃費(WLTC):18.0km/L
・サスペンション:(前)マクファーソンストラット、(後)トーションビーム
・ブレーキ:(前)ディスク、(後)ドラム
・タイヤ:(前&後)185/55R15