1901年にノッティンガムで初めて登録された
このファントムIIIは、ヘンリー・ロイスが1933年に亡くなる前に開発した最後のモデルでもある。このクルマには、ゴールドフィンガーの密輸に大いに役立つ数々の革新的技術が盛り込まれている。サスペンションシステムには、運転席からコントロールできるフルアジャスタブル油圧ショックアブソーバーが組み込まれており、オッドジョブは荷物に応じて乗り心地を微調整することができる。
ゴールドフィンガーが使用したファントムIIIは、コーチビルダーであるバーカーによる、フロントがオープンでリアが密閉された「セダンカ・ド・ヴィル」(タウンカー)のボディを備えている。その威風堂々とした存在感から、ボンドが「美しいファントムIIIだ……」と言い、金のゴルフクラブとハーレクインの傘を、ボンドと最初に出会ったストークパークの外でオッドジョブがトランクに積み込むシーンは有名である。
ゴールドフィンガーのファントムIIIには、元素周期表の金の化学記号にちなんだ「AU 1」というナンバープレートが付けられている。じつはこのAUというナンバーは、ノッティンガムで登録された自動車を示す英国独自のナンバープレートコードで、「AU 1」は1901年にこの地域で最初に登録された自動車の1台として発行されたものであった。この登録番号は映画で使用された後、スクリーンでのデビューに続き、ほかのロールス・ロイスのクルマに転用されたという。
10月25日をお楽しみに
映画に登場するこのファントムIIIはもともとアメリカ生まれのハットルストン・ロジャース・ブロート氏によって注文されたもので、後に彼はイギリスに定住し、アングルシー修道院の初代フェアヘブン卿となった。このモデルは当時の常識に挑戦し、ランプハウジング、バンパー、ホイールディスク、バックミラーの周囲に至るまで、ほぼ黒一色で塗装。
ボンネットのサイドとトップを際立たせるホワイトのコーチラインが施され、クロームのラジエーターシャッターはサンドブラスト仕上げでより落ち着いた仕上がりとなっていた。計器類には、フェアヘブン卿がイギリスやヨーロッパ大陸の道路で使用するため、英国単位とメートル法の両方が採用された。
その後、映画『007/ゴールドフィンガー』に登場するために、イエローとブラックのツートンカラー仕上げが施されたのである。2024年10月25日、ロールス・ロイスは「AU 1」のファントムの物語の新たな章の幕を開ける。ロールス・ロイスとジェームズ・ボンド映画とのつながりをさらに発展させる予定だ。
AMWノミカタ
1964年に公開された『007/ゴールドフィンガー』のボンドカーはアストンマーティン「DB5」であるが、敵役のクルマとして「ファントムIII」が使われていることを初めて知った。007の公式YouTubeチャンネルではフルカ峠でのカーチェイスの模様をダイジェストで観ることができるが、ロールス・ロイスを象徴する観音開きのドアを開けるシーンやフロントに屋根のないこのモデルの映像は、当時映画を見る人々を驚かせたことだろう。
その走る姿は余裕に満ちて優美であり、オーリック・ゴールドフィンガーが悪路の峠道であるにもかかわらず後席で居眠りをしているシーンは、いかにファントムIIIが快適であったかを、とてもうまい方法で表現している。あらためてこの『007/ゴールドフィンガー』を含めて007映画を再鑑賞したいと感じた。
【動画】フルカ峠を駆るロールス・ロイス「ファントムIII」を観る