個性的なモデルも多かったのだが……
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「ボルボの完全EV化宣言の撤回」です。ボルボは2030年までにラインアップのすべてをEV化すると宣言していましたが、EVの需要が伸び悩んでいることなどを理由に方針を撤回しました。それによりどのような問題が出てくるのか、筆者の思いとともに語ります。
これからのエンジン開発といった新たな課題も
「やはり、撤回すると思ったよ」
「そりゃそうでしょ」
ボルボが公言していた2030年までの全車EV化の計画を撤回するとの発表を聞き、冒頭のような言葉を呟いた人も多かったと思います。
ボルボはすでに世界の先陣を切るようにEV化宣言したわけですが、世界のEV化の潮流は予想したより進んでおらず、このままでは経営への足枷になると判断し、計画の撤回を決めました。
当初の計画では、2025年までに世界の新車販売の50%を電気自動車とし、残りはハイブリッドで構成する腹づもりでしたが、2024年1月〜6月の実績では23%にとどまっています。
充電インフラの普及が予測より鈍化していることもEV普及の障害になっていますし、固体燃料などの革新的なパッテリーの開発もまだ進行段階です。欧州のEV補助金削減などもあり、完全なEV化は拙速だと判断したわけです。
ボルボがEV化宣言したころは世界的にカーボンニュートラルこそ正義だとの風潮が強かったように記憶しています。いまでも脱炭素化は待ったなしの課題なのですが、それにしてもそんなにすぐEVだけにはならないだろうというのが多くのユーザーの肌感覚でした。ですから冒頭のようなため息があふれたわけです。
さらにボルボに対しては、心配されている件があります。ボルボはEV化宣言をしたうえで、内燃機関の開発部門を縮小してしまいました。当面はハイブリッドを数多く販売してEV開発の原資を稼がなければなりませんが、ガソリンエンジンの新規開発は凍結したと聞いています。
時代がEV化に向けて進んでいるなかでも、トヨタやホンダをはじめとした多くのメーカーはハイブリッドエンジンの開発を進めており、燃費性能も日々進化しています。それなのにボルボの進化は止まっている。ここから苦戦が予想できますよね。
ともあれ、ボルボの親会社は、フルラインアップの品揃えのある中国の吉利汽車です。技術的なサポートを受けることは可能ですが、心配事には違いありませんね。
同様の宣言をしたホンダはどうなる?
ボルボのEV宣言撤回を耳にした瞬間に、ホンダのことが心配になりました。ホンダも同様にEV化宣言をしているメーカーだからです。
ボルボはEV化の期限を2030年としていましたが、ホンダは2040年です。そこには10年の開きがありますが、このままの勢いが持続したとしても10年で全モデルが電気自動車になるとは想像ができません。
ホンダは水素燃料モデルも開発しています。2040年電動化の中にはその水素も含まれますが、それにしても公約達成は困難なように想像します。ですので、ホンダも前言撤回するのではないか、あるいは2040年としていた達成時期をさらに延長するのではないかと予想しています。
もっともホンダはボルボより方針撤回の悪影響はありません。ホンダでは高性能なハイブリッドシステム「e:HEV」をラインアップしていますし、ピュアなエンジンモデルの開発を継続しています。仮にEV化計画が頓挫したとしても、販売への影響はミニマムでしょう。
逆の言い方をするならば、EV化撤回の可能性も覚悟しており、内燃機関の開発を続けていたのかもしれないと想像することもできます。という理由でホンダは自在に方針撤回をすることが可能なのです。
ホンダはそれについて近日中に、なんらかの発表をするのではないかと想像します。EV化宣言の撤退か延期か……。ボルボが与えた影響は小さくはありませんよね。