ロールス・ロイスの新たな夜明けをもたらしたモデルを振り返る
ロールス・ロイスは創業120周年を迎える2024年、ブランドを語るうえで重要な人物やモデルにフォーカスを当てて紹介しています。今回紹介するのは1949年に発表された「シルバードーン」です。ロールス・ロイスがボディからインテリアまで一貫して生産した初のモデルであり、そのデザイン、構造、エンジニアリングは、今日でもロールス・ロイスの製品に影響を与えて続けています。ブランドの新しい「夜明け」をもたらしたモデルを紹介します。
生産コスト削減のため単一のシャシーを開発
ロールス・ロイスは1939年から1945年の間、航空エンジンの製造に専念するために自動車生産を一時停止していた。というのはあくまでも表向きの発表で、水面下では新型モデルの設計作業が続けられていた。
1930年代、ロールス・ロイスは3つのモデルを販売していた。それぞれのモデルには固有の部品が多数含まれており、モデル間で共有することはできなかった。このため、1台あたりの製造コストが大幅に上昇し、戦後の緊縮財政の中ですぐに生産を維持できなくなってしまうのである。
ロールス・ロイスは、品質や性能を損なうことなく生産コストを削減する必要に迫られた。その解決策として、共通部品を使用できる新型車、直列4気筒/6気筒/8気筒のバリエーションが提供可能な新しいエンジン、そして可変寸法で構成できる単一のシャシーを開発する決定を行なった。シャシーは、独自のアルミニウム製スペースフレームの先駆けとして捉えることができる。
これらのアイデアは、後に「合理化されたレンジ」として知られるようになる。1946年、ロールス・ロイスはその合理化された初のモデル、「シルバーレイス」を発表した。これは、1936年に発表された「ファントムIII」の直接的な後継モデルであった。シルバーレイスはその先代モデル、そして戦前のすべてのモデルと同様、サードパーティ製ボディワークを装着するために設計されたローリングシャシーであった。
しかしながら、ロールス・ロイスは、このような厳しい時代に商業的に成功するためには、従来のコーチビルディングよりも安価で大量生産が可能なモデルが必要だと考えていた。そこでロールス・ロイスは、その歴史上初めて、コーチワークを自社で組み立てた完全な自動車を生産することにした。シルバーレイスがファントムIIIに取って代わったのと同じように、この新しいモデルは、それまでの数十年間にロールス・ロイスが製造してきた小排気量車の伝統を引き継ぐことになる。
シルバードーンは1949年に発売
「合理化されたレンジ」の2番目となるモデル、「シルバードーン」は1949年に登場し、当初は主に北米とオーストラリア市場向けの輸出車としてのみ販売された。生産された761台のシルバードーンのうち、大半は4ドア・サルーン・ボディであった。しかし、ロールス・ロイスは顧客の要望を尊重し、ローリングシャシーとしても64台提供し、コーチビルダーによってボディが架装された。このモデルの生産は1955年まで続く。
シルバードーンは1952年まで、顧客は小型と大型の両モデルにオートマチックトランスミッションを備えたローリングシャシーを選択することができ、マニュアルトランスミッションで提供された最後のロールス・ロイスモデルとなった。今日のすべてのV12エンジンを搭載するロールス・ロイス車に搭載されている、ZF製8速オートマチック・トランスミッションが登場するのは半世紀以上先のことだが、このときにその礎は築かれていたのである。
奇才デザイナーによって再設計される
シルバードーンの生産終了が近づいた頃、新たに雇われたジョン・ブラッチリー氏によってリアセクションが再設計された。彼はロンドンの有名なコーチビルダー、ガーニー・ナッティング社で技術を学んだ後、ロールス・ロイスに加わった。彼の繊細なデザインセンスは荷物容量を増やすだけでなく、外観も大幅に向上させることに成功した。彼はその後、その才能が認められロールス・ロイスのチーフスタイリングエンジニアに就任している。
2015年に「ドーン」という名前が復活し、2023年の生産終了までにロールス・ロイス史上最も売れたドロップヘッドモデルとなった。
シルバードーンが1949年に誕生してから、70年以上が経過している。それでもなお現代の交通状況において、ドライバーには爽快な体験を、乗客には長距離でも快適な乗り心地を提供する。シルバードーンはあらゆる意味で完全にロールス・ロイスなのである。
AMWノミカタ
シルバーレイスの成功の影に隠れ、あまり日の目を見なかったモデルがシルバードーンである。これはベントレー「マークVI」の兄弟車であったが、対米輸出を前提に制作されたモデルで、戦後のアメリカのユーザーがリーズナブルな価格の実用的なサルーンを好んだことによる。
後年ロングブーツと呼ばれる長いトランクを持ったモデルが登場するが、これも実用性をさらに向上するための改良だったのだろう。マークVIが輸出されなかったのは圧倒的にロールス・ロイスの方がブランドとして人気があったという理由であるが、6年という短命で終わってしまったのはやはり小型のロールス・ロイスは彼らの望むモデルではなかったのであろう。それでもこのモデルは、4速オートマチックを採用し、自社製のボディを架装するなど意欲的な試みが行われた。そのような意味でも現代のロールス・ロイスの基礎となる、歴史的に見て貴重なモデルであると言える。