ヤングタイマー人気の中、ディアブロVTに下された評価はいかに?
ここ数年の「ヤングタイマークラシック」マーケットの高騰は、もはや一過性のものではないようで、とくに人気モデルの相場価格は上昇の一途を辿っているかに見えます。そんなマーケット市況のもと、毎年8月の恒例行事となっている「モントレー・カーウィーク」でも最大規模のオークションとして、RMサザビーズ北米本社が世界最大規模のクラシックカーオークション「Monterey 2024」を2024年8月15日~17日に開催。このところのランボルギーニ人気も相まって、あれよあれよという間に相場価格を上昇させている「ディアブロ」の4輪駆動バージョン「ディアブロVT」が出品されていました。
ミウラ、カウンタックに次ぐ第三の矢、ディアブロとは?
スーパーカーの開祖ともいわれる「ミウラ」でそのワイルドな名声を確立し、「カウンタック(クンタッチ)」でその名声を確固たるものにしたイタリアの自動車メーカー、ランボルギーニは、1980年代が終わろうとしていた頃、その名声を維持するためには新たな猛牛が必要であることを理解していた。
そして、新しい10年が始まって3週間後となる1990年1月21日、モナコにおいて世界初公開された「ディアブロ」によって、サンタアガタ・ボロネーゼのチームは、3つめの大ヒットを達成することができた。
偉大な故マルチェロ・ガンディーニ氏がデザインし、1987年にランボルギーニを買収したことで親会社となっていた北米クライスラー・グループ所属のデザインチームによって改良を施されたアルミ製コーチワークを持つディアブロは、たちまち新世代のエンスージアストへの広告塔となってゆく。
ディアブロは、カウンタックの画期的なミッドエンジンレイアウトを引き続き採用。パワートレインは、アルミニウム製V型12気筒エンジンを発展させたもので、排気量は5.7L、最高出力は492psを発生した。
最高速度は325km/hに到達し、偉大な前任モデルを軽々と凌駕するとともに、時速200マイル(約320km/h)の「成層圏」にいるスーパーカーの超選抜グループに名を連ねるに至った。
1993年には4駆モデルも登場し、さらなる注目を集める
しかしサンタアガタ・ボロネーゼの攻勢は、それだけには終わらなかった。1992年には、1993年モデルとして、のちにランボルギーニ全モデルでデフォルトとなる4WDモデル「VT」が登場したことで、ランボルギーニは子どもの頃の寝室に貼られたポスターのようなエキゾチックな存在から、テクノロジー面でも世界の最先端に躍り出るのだ。
「VT」とは「ヴィスカス・トラクション」のイニシャル。前輪と後輪のパワーを分割するドライブトレインのカップリングにちなんだ。通常時は後輪のみが駆動されるが、トラクションが失われた場合、利用可能なパワーの最大25%が前輪に供給されることになっている。
ランボルギーニとしてはクロスカントリーカー「LM002」以来となるAWDシステムは、オンロード用スーパーカーであるディアブロでも、優れたトラクションと加速を実現。以前は華麗なスタイリングと、非現実的なパフォーマンスを身上としていたランボルギーニに、飛躍的な技術的ソフィスティケートをもたらしたのだ。
ランボルギーニ・ポロストリコの承認も取得した個体ながら……
このほどRMサザビーズ「Monterey 2024」オークションに出品されたランボルギーニ ディアブロVTは、シャシーナンバー「12970」。
1993年12月3日に完成したとされるこの個体は、「シルバーミスト」のボディに「ネロ(黒)」のレザートリムの組み合わせで仕上げられ、電動ウインドウやエアコン、日本の「アルパイン」社製カセットステレオシステムが装備されていた。
サンタアガタ工場からラインオフしたのち、シャシーナンバー12970はランボルギーニ本社所属のプレスカーの1台となり、多くのテストやトライアルに使用された。1994年、F1チャンピオンのミハエル・シューマッハがドイツの雑誌『Auto Bild』でステアリングを握ったことは、当時大きな話題となったようだ。
テストコースにて、同時代のほかのスーパーカーを圧倒したシューマッハは、このクルマのパワーデリバリーとサウンド、ハンドリングに感銘を受け、「見た目よりも文化的」とコメントした。シューマッハのドライビングについて記した当時のプレス資料の切り抜きも、今回の販売に含まれている。
ランボルギーニ広報部から個人オーナーの手に渡って以来、このクルマの名義人はわずか2人とされているそうで、現時点でも極めて良好な保存状態が保たれているという。
2021年3月には、オランダ・ディルクスランドにある「アンドレ・ノウト・クラシックカー・サービス」社の技術者によって、かなり大規模な整備が施されたとのこと。
この時にはエンジンオイルとフィルターの交換、新品のスパークプラグ、油圧センサー、ウォームアップ・レギュレーター、エンジンとインジェクションギャラリーのクリーニングなどが行われたと記録されている。さらに最近では、2024年7月に「ランボルギーニ・マイアミ」社によるサービスが行われ、新品のピレリP-Zeroタイヤが装着された。
このサービスが施行されたのち、ディアブロは「ランボルギーニ・ポロストリコ」に提出され、同チームによる正統性の認定を受けた。
また、純正レザーウォレットにくるまれたサービスブックレットやファクトリーパンフレット、オーナーズマニュアルコレクションも、今回の販売に際して添付されることになっていた。
かなり強気な落札価格を設定していたが……
このオークション出品に際して、RMサザビーズは35万ドル(邦貨換算約5000万円)~45万ドル(邦貨換算約6430万円)という、以前のディアブロVTの相場価格を知るものにとっては、かなり強気にも映るエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
ところが、モントレー市内の大型コンベンションセンターで挙行された競売では、出品者側が期待していたほどにはビッド(入札)が集まらなかったようで、前もって規定されていたリザーヴ(最低落札価格)には届かず、残念ながら流札に終わった。
ちなみに、RMサザビーズにとっては最大のライバルでもある英国ボナムズ社が、この1カ月半ほど前にスイスで開催したオークションでは、同じディアブロVTでもさらに希少な「ロードスター」が、設定されたエスティメート下限を大きく割り込む27万6000スイスフラン、日本円に換算すれば約4700万円で落札されたばかり。
近年の国際マーケットを観察していれば、たしかにカウンタックの市場価格に引き上げられるかたちで、ディアブロの相場もじりじりと上昇してはいるものの、今回のような思い切った価格設定は、まだ時期尚早と判定されたということなのかもしれない。