サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

フィアット初代「パンダ4×4」をさらにオフロード色強めにカスタム! カッコ可愛くモディファイされた1台の正体とは?【旧車ソムリエ】

フィアット パンダ4×4:ローマのカロッツェリアでオフロード色を強めるモディファイが施された1台

1984年式 フィアット パンダ4×4

「クラシックカーって実際に運転してみると、どうなの……?」という疑問にお答えするべくスタートした、クラシック/ヤングタイマーのクルマを対象とするテストドライブ企画「旧車ソムリエ」。今回は、近年ヤングタイマークラシックカーとしての人気が高まっている初代フィアット「パンダ」のオフローダー版「4×4」の最初期モデル、しかもちょっと気の利いたモディファイの施された魅力的な1台をご紹介します。

軍用レベルの全輪駆動システムが奢られたパンダ4×4とは?

1979年末にデビューしたフィアット初代「パンダ」は、おそらく誰もが認めるであろう小型車の歴史的傑作。基本コンセプトの立案からエンジニアリングまで深く関与した「イタルデザイン」社のジェルジェット・ジウジアーロ氏は「現代のシトロエン2CV」を目指したといわれる。巨匠のそんな想いを体現するように、コストを徹底的に抑えるいっぽうで、さまざまなアイデアを駆使することにより、きわめて魅力的なベーシックカーとなっていた。

そして、その特異なキャラクターを確定的なものとしたのが、1983年に追加された「パンダ4×4」。この時代の小型大衆車では非常に珍しかった、オフロード向けの4輪駆動モデルである。

メルセデス・ベンツ「Gヴァーゲン」の生みの親としても知られるオーストリアの「シュタイア・プフ(Steyr-Puch A.G.)」社がパンダのために開発した4WDシステムはシンプルかつ頑強なもので、センターデフは置かず、シフトレバー直後の小さなON/OFFレバー操作によって、後輪にもトラクションを掛けられる。このトランスミッションはオーストリアで生産され、そののちフィアットのテルミニ・イメレーゼ工場に輸送され、完成車としてラインオフされるという複雑な生産体制がとられていたそうだ。

当初はランチア(イタリア本国と日本市場ではアウトビアンキ)「Y10」用の水冷直列4気筒OHV 965cc・48psエンジンを搭載したパンダ4×4は、その後「FIRE」の愛称で知られる新設計のSOHC・999ccを経て、最終的には1108ccまで拡大。「横置きエンジンに4WDシステムを組み合わせた初のシティカー」とアピールされていたという。

この4WDシステムに加え、リアサスペンションは頑丈でオフロード走行にも適したリーフ式リジッドとしたうえに、最低地上高は180mmに高めていた。そのいっぽうで740kgというこの種のオフローダーとしては軽い車両重量、50%近い勾配でも走破できるというオフロードアングルなどを特徴とするほか、ブロックタイヤやサイド下部とホイールアーチの保護ストリップなど、オフロード走行に特化した装備も備えており、ヨーロッパ大陸ではもっとも手ごろな本格的オフローダーとして、長らく認知されてきたのだ。

ちなみに、当時の日本仕様のカタログでは「陸軍の規格をクリアする品質と、耐久性を持たせた4輪駆動システム」と説明されていたとのこと。そのアピールは間違いのないものだったようで、イタリアでは山岳地帯におけるカラビニエリ(軍警察)や金融警察に正式採用されたほか、一部はイタリア国軍にも納入されていたともいわれている。

今回の主役となるパンダ4×4は、イタリアのカロッツェリアによって生来のキャラクターをさらに強調するべく、よりワイルドに仕立てられた1台。本来ならば、このカッコ可愛いクルマの本分であるオフロードにも乗り込みたいところではあるが、そこはご厚意で提供していただいた借り物である。クルマを傷めてしまう事態を避けるために、今回はシティドライブ中心の試乗となった。

センスあふれるモディファイでオフロード色を強めた初代パンダ

このほど「旧車ソムリエ」取材にあたって、愛知県名古屋市に本拠を置く「チンクエチェント博物館」からご提供いただいたのは1984年式。リアフェンダーにフレアがなく、テールゲート側にナンバープレートを収めるためのくぼみが設けられていた時代の、いわゆる「セリエ1」に分類されるパンダ4×4である。

チンクエチェント博物館では「ヌォーヴァ(新)チンクエチェント」とも呼ばれる2代目フィアット「500」の魅力を日本でも広めることも使命と位置づけ、数年前からイタリア国内で活動するフィアット・スペシャリストとのコラボレーション事業として、この時代の500とその係累のモデルたちを輸入販売しているのだが、近年500にくわえて注目しているのが初代パンダだという。そして、今後パンダの魅力も流布してゆくためのシンボル的存在として、ローマのカロッツェリアで大改造されたという、このこよなく魅力的な個体を輸入したとのことだった。

じつは筆者が取材対象としてこのクルマに目をつけたのは、同博物館の公式Facebookページにて、日本に上陸を果たしたばかりの段階で投稿されたこの車両の写真をたまたま見かけ、すっかり魅了されてしまったことにさかのぼる。

念願かなって目の当たりにすると、同時代のランチア/アウトビアンキ「Y10 4×4」用と思しきホイール(ちなみに現在ではレアアイテム)に履いた、オフロード専用のごついブロックタイヤ。このセットをテールゲートのみならず、エンジンフードをくりぬいて、まるで旧い世代の「ランドローバー」のようにドンと載せることで、もとより可愛いけれどワイルドなパンダ4×4が、何倍増しにもカッコよく映る。

カッコ可愛い見た目とは異なる手強いフィール! でも独特の楽しさも満喫できる

ところがひとたび路上に出てみると、このタイヤがちょっとした難物であることに気づかされる。オフロードに比べてグリップの強いアスファルトの一般道では、路面からの抵抗が過大となるため、スロットルを緩めるとみるみるスピードが低下してしまうのだ。おそらくは、燃費にもかなりの影響を及ぼすことは容易に想像できる。

ならば、もう少し常識的なオールテレイン・タイヤに履き替えてしまうという方策もアリなのかもしれないが、この明らかにオーバースペックなブロックタイヤこそが、カッコよさを引き出している最大の要素であるのは間違いないところ。だからタイヤに関する楽しい悩みは、きっとこれからオーナーとなる方に引き継がれてゆくのだろう。

ところで、直列4気筒のエンジンは体感できるパワーこそ大したことなく、サウンドやレスポンスなどのフィールも、1980年代ヨーロッパ製ベーシックカーの常識に即した長閑なもの。でも、オフロードユースを意識してだろうか、低中速トルクは豊かで非常に扱いやすい。くわえて、35度超えの猛暑のなかで行われたドライブでも電動ファンがしっかり機能し、水温が不用意に上昇するような心配もなかった。つまりは、非常に実用性の高いエンジンといえよう。

いっぽうトランスミッションは、初期の前輪駆動パンダが4速MTだったのに対して、4×4には5速MTが奢られているものの、1速はいわゆる「スーパーロー」。通常の道路ではFWD版と共通のギヤレシオとなる2~5速を、実質的な4速MTとして走らせれば、トルクフルなエンジンとの相乗効果で、街中でもリズミカルに走ることが可能である。

4×4版は初乗りとはいえ、勝手知ったる初代パンダということで、今回はろくにコクピットドリルを受けることもなく走り出した。それでも、最初のうちは何速に入っているかも判別が難しいグニュッとした感触のシフトフィールに戸惑うこともあったのは事実ながら、しばらくして慣れてきたらとてもナチュラルな走りであることに気づかされる。

ノンパワーのステアリングはなかなかの手ごたえで、カーブではグラリと来る大きめのロールを伴いつつも、スポーツカーとはまったく種類の異なるものながら、確かなドライビングプレジャーが確認できる。

前輪駆動でも4輪駆動でも、やっぱりパンダは楽しい……! そんな思いを新たにしたのである。

■「旧車ソムリエ」連載記事一覧はこちら

モバイルバージョンを終了