予想以上に好印象だったインテグラ タイプS
2024年7月末から8月末の1カ月間、米国西半分の博物館を巡る取材旅行に出かけてきた筆者。個々の博物館への探訪記はまた別の機会に譲るとして、まずは取材の足としてアメリカを駆け巡ったクルマの試乗記(旅行記)を2回に分けてお届けします。前編の今回は、ホンダ「シビック タイプR」と、アキュラ・ブランドとなっている「インテグラ タイプS」です。
ほぼ想像通りのシビック タイプR
かつては海外レースを取材するついでに自動車博物館を訪れるのが専らだったが、15年ほど前からは自動車博物館の取材をメインテーマに海外を訪れるようになって久しい。海外レースもヒストリックカーイベントに変わっていった。しかし寄る年波には勝てず、というのか、昔は「父さん大暴走」とサブキャッチをつけて探訪記をしたためていたものが、最近では「爺になっても大暴走」、と揶揄されるように。2024年で打ち止めとすべく、6月から7月にかけてヨーロッパで行き漏らしていた博物館を訪ね、7月末から8月末の1カ月は米国西半分を巡る取材旅行に出かけてきた。
個々の博物館への探訪記は、また別の機会に譲るとして、まずは取材の足としてアメリカを駆け巡ったクルマの試乗記(旅行記)を2回に分けてお届けしたい。前編の今回は、ホンダ「シビック タイプR」と、アキュラ・ブランドとなっている「インテグラ タイプS」。
ロサンゼルス空港には早朝に到着。予約しておいたレンタカーをピックアップしてアメリカン・ホンダ、通称「アメ・ホン」の本社に向かう。レンタカーは起亜(KIA)の「フォルテ」。1.6Lの123psだから、2Lターボで最高出力も2.5倍以上となるシビック タイプRやインテグラ タイプSに対する「物差し」としては物足りないことは仕方ないと思っていたが、実際にはこれがことのほか、よく走った。ハイウェイでも現実的な最高速である時速70マイル(約112km/h)での巡航あたりまでならパフォーマンスやドライバビリティに何の不満もなかった。
さあ、いよいよシビック タイプRとインテグラ タイプSだ。前者は「アメ・ホン」の本社発着の1泊2日のショートドライブで、後者は1週間のロングドライブとなる。シビックは、「アメ・ホン」の広報車がスケジュール的に超多忙とのことで、一時はインプレッションを諦めていたのだけれど、なんとかスケジュールをやり繰りしてもらい、ショートドライブが可能になるという経緯があった。ちなみに、国内未導入のインテグラはもちろんだが、2022年に追加されたタイプRも含めて2021年に登場した現行シビックにも、国内で未試乗だったから、かの地での博物館探訪が初ドライブとなったのだ。
現行の11代目シビックも同タイプRも未試乗だったが、国内の主要レースシリーズを皆勤賞で追いかけていた2010年代の前半まではメーカー各社の広報車をお借りして国内の主要サーキットを訪れていたから、シビックも9代目のFB型あたりまではロングドライブでのインプレッションは経験済み。
タイプRについても3代目あたりまでなら記憶の片隅に残っている。それが正確に引き出せるかどうかは多少自信が薄れていくのだが、それはともかく。シビックは初代モデルをリアルに走り倒していたし、スポーティモデルの初代RSでも学生時代に四国の山道を走り回っていた。だから最近のモデルをドライブした経験はなくても歴代シビックのベースモデルとホットモデル=タイプRの立ち位置は乗る前から十分に想像できた。そしてシビックのタイプRはほぼ想像通りだった。
軽量コンパクトだった初代シビックRSが懐かしい
「タイプR」を登場順に並べていくと1992年のNSX、1995年のインテグラ、そして1997年のシビックとなるのだが、NSXはクルマ(ベース車両)そのものがハイパー過ぎて、細かな部分に対しての印象は薄かった。しかしインテグラは反対に、トランスミッション……正確にはそのシフトフィーリングに痺れてしまい、このミッションだけでもタイプRを選ぶに値する、と何かの試乗記で書いたことを覚えている。そしてシビックの場合は若さゆえの怖いもの知らずだから、サイズ的にもパワー的にも、これなら自分でも振り回せる、と書いたような気がする。
その流れで言うなら今回のシビック タイプRはほぼ、乗る前に予想していた通りだった。5速から6速へと1速分増えているが小気味よいシフトフィーリングや、エンジンを始動した時の高揚感。走り始めた途端に感じるボディの剛性感。そして街中で2速と3速を交互にシフトしながら走り抜けていく爽快感まで、ほぼ想像どおりのクルマだったことが確認できた。
しかし今再びシビック タイプRを選ぶか、と言われると「?」が残る。パフォーマンスは十二分だが、ボディの剛性感がそのまま乗り心地を固くし過ぎている印象があったから。それにシビックを名乗るには、少し成長し過ぎた体躯が気になるのは初代RSオーナーならではだろうか。
段差を通過したときの感覚が心地良い
一方、1カ月の「夏休み」の3週目にロングドライブしたインテグラ タイプSはシビック タイプRとは一転、全てが想像以上の好印象だった。エンジンをかける前に確認したシフトフィーリングやエンジンを始動する時の高揚感、走り始めてすぐに感じる剛性感。そして街中での爽快感などはシビックのタイプRと全く同じなのだけれど、横断歩道の手前に設けられている段差を通過した時の驚きが、タイプSに対する印象を一気に好ましいものに変えてしまった。
段差を通過した時にタイプRでは「ドンッ」と腰に響いたのが、タイプSでは「トンッ」と腰ではなく耳に心地よく響いたのだ。となるとタイプRでは成長し過ぎた感のある立派な体躯も「持て余し感」は気にならなくなった。
「アメ・ホン」の広報によると、シビックに追加設定された新グレードのRSは、このインテグラのタイプSと同様のセットアップになるとのこと。じゃあシビックのRSもアリかな、と思うのだが、やはり初代RSのオーナーとしては軽量コンパクトで、少しだけパワーアップしたRSこそが正真正銘のRSで懐かしいと思ってしまうのだ。
誤解なきように付け加えると、最新のシビック タイプRやシビック RSの仕上がりには何の不満もない。ただ懐古趣味かもしれないけれど、軽量コンパクトだった初代シビック RSの爽快感が懐かしく思われるのだ。