最高のコンディションにレストア
このTシリーズを確認すると、ドライブトレインの主要部品は驚くほど良好な状態であることが判明した。入念な整備が必要だっただけでエンジンは15年以上の沈黙を破って息を吹き返した。リアアクスルも良好な状態で、新しいパーツが必要なだけだった。
チームにとっての大きな課題は、ダッシュボードの欠落、インテリアトリムの欠如、詳細図のないバラバラの配線、リアサブフレーム周辺の腐食、過去のたちの悪いクラッシュの修復などだった。市販の交換部品がほとんどなかったため、チームは耐用年数を迎えたドナー車両を調達した。
Tシリーズの仕様は年々進化しているため、ドナー車は初期モデルであることが重要だった。シートベルトのバックルにある正しいロゴ、ウイングミラーなど細部に至るまで議論され、慎重に選定された。
ベントレーのヘリテージコレクションに仲間入り
Tシリーズには、振動をやわらげる革新的なバイブラショック・マウントと2サーキットのハイドロニューマチック車高制御が採用されていたが、すべてオーバーホールされた。ほかにも油圧ホースが交換され、ブレーキ・ディストリビューション・バルブなどのユニークな部品も完全に動く状態に戻された。ダッシュボードの配線と取り付けは大仕事で、膨大な時間と根気が必要だった。
また、塗装が剥がされ、事故による修復がうまくいっていないことや、パネルの隙間が一定でないことが明らかになった。車両全体には2Kハイビルド・プライマーを何度も塗り重ね、乾くとサンディングが行われた。
さまざまな工程を経て、このTシリーズはヘリテージコレクションに新たに加わった。コレクションに含まれる他の45台のクルマとともに、Tシリーズは英国クルーにあるベントレーのキャンパスで永久展示され、公道走行可能な状態で保管される。
AMWノミカタ
戦後のベントレーの大きな特徴は、「マークVI」で成功を収め、「Sシリーズ」で伝統のV8エンジンを搭載し、「Tシリーズ」でモノコック化され、「SZシリーズ」に続く近代的なモデルに進化してゆく。4輪の独立懸架式サスペンションやサーボ付きのディスクブレーキなどもTシリーズから搭載される。
しかしながらこれまで、Tシリーズはロールス・ロイス「シルバーシャドウ」の影に隠れ、正しく評価されていないモデルでもあった。今回、59年ぶりにこのクルマがクルーに戻ったが、時が経ち、単なる中古車からようやくヴィンテージカーとして注目されるようになってきたということだろうか。この時代のベントレーに関する資料は少なく、あまり語られることがなかった。これをきっかけに隠れた名車であるSシリーズ、Tシリーズ、そしてSZシリーズに再びスポットライトが当たることを願いたい。