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10台しか存在しないアルファ ロメオ「155 V6 TI DTM」は1億円以上の価値がある!? 走らせるにはさらにハードルの高い上級エンスー向けの1台でした

65万ユーロ(邦貨換算約1億600万円)~70万ユーロ(邦貨換算約1億1400万円)で販売が継続されているアルファ ロメオ「155 V6 TI DTM」(C)Courtesy of RM Sotheby's

DTMのスーパースター、アルファ ロメオ155 V6 TI

2024年7月末、ドイツ・バイエルンアルプスの山麓、テーゲルン湖畔の壮大なリゾートホテル「グート・カルテンブルン」を舞台として、じつに200台の新旧車両を集めた「コンクール・オブ・エレガンス・ジャーマニー」が初めて開催されることになりました。そこでRMサザビーズ欧州本社はオフィシャル企画として「The Tegernsee」オークションを開催。31点の出品ロットの中には、伝説のDTMマシン、アルファ ロメオ「155 V6 TI」も含まれ、明らかに異様な存在感を放っていました。

独DTM選手権で伝説を残した最強モンスターとは?

1990年代にヨーロッパのみならず日本のレースシーンも席巻したツーリングカーレース・ブームのなかでも、もっとも華やかでエキサイティングなものとして広く注目された「DTM(ドイツ・ツーリングカー・マイスターシャフト=ドイツ・ツーリングカー選手権)」は、大手自動車メーカーが大々的に関与し、スタードライバーにも恵まれ、プロモーション活動にも力を注いでいた。

1993年シーズンのDTMシリーズは「FIAクラス1ルール」を採用し、高回転型マルチシリンダーエンジン、先進的な4輪駆動システム、そしてベース車両からは離れた構成となっても空力効率を徹底追求できる「シルエット」ボディワークの開発を許可した。

アルファ ロメオが2.5L V6エンジンを搭載し、4輪駆動の「155 V6 TI」という驚くべきスーパーマシンでこのシリーズに参加することを決めたのも、こうした技術的およびレギュレーション的な背景のおかげだった。

驚くべきことに、アルファ ロメオの新戦力はデビューイヤーから14勝を挙げ、ライバルのワークス「AMGメルセデス」や「ヨースト・オペル」を破って、ニコラ・ラリーニが1993年シーズンのタイトルを獲得した。

1994年シーズンも参戦するが……

ディフェンディングチャンピオンとなったアルファ ロメオは、1994年シーズンも継続参戦。旧アバルト技術陣で構成されたワークスチームの「アルファ・コルセ」は再び3台体制で、前シーズンから参画していたセミワークスの「シューベル・エンジニアリング」も引き続きエントリーすることになった。

1994年バージョンの155 V6 TIは、ドラッグの減少と低重心化のため全高を20mm下げ、エンジンの位置も1993年仕様よりも低く、車体中央寄りにマウント。エンジン自体も1993年仕様と同じV6エンジンながら小型・軽量化した新設計のものが用意された。また「ケルシー・ヘイズ」製ABSシステムやアクティブ・サスペンションの導入など大幅な技術改良が施されたものの、このシーズンのアルファ ロメオは信頼性の低さに苦しめられる。

そして、同じく2.5L V6エンジンを搭載した「CクラスDTM」を、満を持した形で実戦投入したメルセデス・ベンツAMGとクラウス・ルートヴィヒに、1994年シーズンのタイトルを奪還させる結果となってしまったのだ。

特別な環境を用意できる上級者じゃなければ、買っても走らせられない?

このほどRMサザビーズ「The Tegernsee」オークションに出品されたアルファ ロメオ 155 V6 TIは、アルファ・コルセが製作した1994年バージョンのわずか10台のうちの1台で、シューベルがキャンペーンを行った3台のうちの1台である。

F1グランプリでも活躍したベテラン、クリスチャン・ダナーがドライバーを務め、5月の「ニュルブルクリンク・アイフェレンネン」戦での2位入賞を含む14回のポイント獲得に貢献した。くわえて1994年のDTMランキング9位という成績には、イタリアのムジェロで開催された2つの非選手権レースのうちの最初のレースで3位入賞を果たしたことで、さらなる輝きがもたらされることになった。

1995年シーズンに向け、このマシンはアレーゼを拠点とする「ユーロチーム」の手に渡り、ダナーと同世代のF1ドライバーであるステファノ・モデナがこの年のDTM開幕戦から4レースを戦った。5月初旬に行われた「アヴス」戦では5位と2位を獲得し、このマシンのレースキャリアは有終の美を飾ったといえよう。

それから20年以上の時を経た2017年、このクルマはアルファ ロメオのエキスパートであるファブリツィオ・パンドルフィ氏によって、ベアメタル状態になるまで塗装を剥離したフルレストアが施され、1994年シーズンの「シューベル」カラーを完全再現。それ以来、走行距離はごくわずかとのことである。

そして2018年に現オーナーが入手したこの車両には、スペアエンジンや2基のギアボックス、スペアのフロントディファレンシャル、オリジナルの「ヴァーゲンパス(レース参加に必要な車両通行証)」を含むスペアパッケージが付属している。

入札は思ったように伸びず……

今回のオークション出品に際して、RMサザビーズは65万ユーロ(約1億600万円)~70万ユーロ(約1億1400万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定。また、「コンクール・オブ・エレガンス・ジャーマニー」における展示を実質的なプレビュー(入札前の検分)として、入札は7月27日(現地時間)に締め切られることになっていた。

ところが実際にオークションの火ぶたが切られると、ビッド(入札)は思うように伸びず、締め切りの段階を迎えても「リザーヴ(最低落札価格)」に届かないまま、流札に終わってしまった。

とはいえ、あくまで筆者の私見ながら、このオークション結果には納得せざるを得ない気もする。たとえ入手できたからといって、誰もが普通に乗れるシロモノではないからである。

実際このマシンを走らせられる環境は、しかるべきサーキットに限定されること。また、エンジンを始動させるだけでも専用のコンピュータソフトが必要で、もちろん専門知識とスキルを持ったメカニックの助けがなければ、コースインもままならない。なんとか走り出すことはできても、消耗品などのスペアパーツは常時そろえておく必要がある。

つまり、このマシンに必要な技術力を備えたスペシャリスト、あるいはサーキット近隣にガレージを構える、いわゆる「レース屋」さんに預けておく。そして、走行イベントのある時だけサーキットのピットまで運んでもらい、整備や暖気まで済ませてもらったうえで「愛車」とともに颯爽とピットアウト。そんな乗り方ができる、裕福かつ腕自慢の上級エンスージアストでもなければ、このマシンに興味を示すことはあるまい。

でもそんな上級者は、世界レベルでも非常に限られた存在ということなのであろう。

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