「クルマが道を知っている」という褒め言葉がふさわしい
対するトロフェオはというと、重要配分など基本の設計コンセプトに起因するような走りの魅力はほとんどそのままに、数値のアップ分以上にワイルドなキャラを隠そうともしない。モデナに比べてV6のエグゾーストノートはより猛々しく、ハンドリングもさらにニンブル。乗り心地もさらに硬質でフラットフィールに満ちている。
1000kmほど乗ってみた結論からいうと、モデナよりもいっそうボディサイズも小さく感じられて、GTスポーツカーらしい。ドライバーの意思に忠実な動きを見せる脚の様子から新設計ボディ骨格のしっかり感を体感することができ、それを手応えとして楽しむことさえできたのだ。
街中でのライドフィールはモデナに比べると硬さの目立つ場面が多かったものの、それも速度を上げていくにつれどんどんこなれていく。これはトロフェオに採用されたエアサスペンションシステムによる恩恵だ。ドライブモードを変えることで、たとえばコンフォートにすれば街中でも少しはストレスも減ってくれるけれど、それでもタイヤの形状や硬さが如実にドライバーへと伝わる。高速クルージングでコンフォートモードを選ぶと若干足元が緩んでバタつく。基本、GTモードが良いだろう。
450キロのロングドライブは疲れなし
もっともロングドライブの全体を通していえることは、日本の巡航速度領域(80〜120km/h)でも素晴らしい安定感を誇る“グラントゥーリズモ”であったということ。
筆者はグランツアーの得意そうなモデルを中心に年に50モデルほどピックアップして東京〜京都往復の長距離テストを行なっているが、マセラティのグラントゥーリズモと並ぶ、もしくはそれ以上のモデルを挙げてみろといわれたら、片手で事足りる。しかもほとんどが価格的にみてグラントゥーリズモ以上のモデルばかりだ。グラントゥーリズモのプライスタグもかなり高くなってはいるけれど!
軽くなった車体(なんとエンジン仕様とバッテリー&モーター仕様とで共有する)とシャシーの制御、V6になったことによる動的な重量バランスの最適化が効いていると思う。路面にピタリと張り付くような安定した走りを見せつつ、ステアリングフィールからは常に乗り手の自由に動くという感覚が発せられていた。クルマが道をよく知っているという褒め言葉は、まさにこんなクルマに使うことがふさわしい。
ときおり思い出したように右足を踏み込んでみる。普段はやけにおとなしいV6サウンドもなかなか迫力のある咆哮を奏でて眠気を吹き飛ばしてくれる。京都まで久しぶりにあっという間の5時間半、450kmだった。精神的にも早く到着する。もちろん肉体的な疲れもほとんど感じない。当代1級のグランドツーリングカーであることは間違いのないところ。
先代までのV8サウンドを恋しく思う人も少なくないだろう。しかも価格的には一気にスーパースポーツカーの仲間入りをした。円安とはいえ撮影車両で乗り出しおよそ4000万円とは! かえって「MC20」がバーゲンプライスに思えるほど。
これまでのマセラティユーザーには手を出しづらいモデルになってしまったけれど、性能・質感ともに大幅にアップしていることもまた事実である。新型グラントゥーリズモにはブランドクオリティをさらに引き上げるというマセラティの決意がこめられているといっていい。