グラントゥーリズモのハイパフォーマンスグレードの実力は?
マセラティの核心となる「グラントゥーリズモ」の、最高出力550psを誇る“ネットゥーノ”エンジンを搭載するハイパフォーマンスグレード「トロフェオ」。その世界300台限定となる「75th アニバーサリー エディション」の実力を、自動車ライターの西川 淳氏が東京〜京都の450kmのロングドライブで試しました。
“エンジン好き”の期待にも応えるグランドツアラー
「グラントゥーリズモ(GT)」といえばマセラティというクルマの核心であり本質だ。最新世代のGTがデビューした2022年から遡ること75年前、1947年にデビューした「A6 1500」が初代マセラティGTである。
そしてマセラティのGTといえばマラネッロ製V8エンジンを積むことが魅力のひとつだったが、その契約は発展的に解消され、マセラティは電動化の道“も”歩むことになった。新型GTにはフォルゴーレと呼ばれるBEVモデルも用意されている。
一方でエンジン好きの気持ちを彼らが忘れたわけでは決してなかった。自社開発のV6ツインターボエンジン“ネットゥーノ”を搭載するモデルも用意されていたのだ。
「MC20」に積まれて注目を集めたV6ネットゥーノエンジン。ブランドの威信をかけて新開発されたエンジンだ。そのウエットサンプ版を積んだ最新のマセラティGTには、出力違いで「トロフェオ」と「モデナ」の2グレードが用意されている。そのうち今回、東京から京都までのロングドライブのパートナーに選んだのは550ps版のトロフェオで、しかも世界300台限定(うち試乗したグリジオ・ラミエラ・マットのV6トロフェオは75台)の75周年アニバーサリーエディションであった。
75周年記念のトロフェオについて語りはじめる前に、以前にイタリアで試乗した490ps版のモデナについても触れておきたい。
モデナは一体感あふれるハンドリングが魅力の1台
モデナはよりグランツアラー志向の強いモデルだ。ドライブモードに過激な設定のコルサがないことからもわかるように、よりマセラティのGTらしいグレードだといっていい。旧型GTよりも格段に乗り手とフィットする感覚がある。ボディサイズ的にはほぼ同じだというのに随分小さなクーペを駆っているという印象さえあった。
FRとして動的に理想的な前後重量配分(52:48)を存分に生かした一体感あふれるハンドリングが魅力の1台だったと言っていい。乗り心地も非常に洗練されており、落ち着きある高速クルージングも圧倒的に洗練されている。究極のデイリーGTだ。
「クルマが道を知っている」という褒め言葉がふさわしい
対するトロフェオはというと、重要配分など基本の設計コンセプトに起因するような走りの魅力はほとんどそのままに、数値のアップ分以上にワイルドなキャラを隠そうともしない。モデナに比べてV6のエグゾーストノートはより猛々しく、ハンドリングもさらにニンブル。乗り心地もさらに硬質でフラットフィールに満ちている。
1000kmほど乗ってみた結論からいうと、モデナよりもいっそうボディサイズも小さく感じられて、GTスポーツカーらしい。ドライバーの意思に忠実な動きを見せる脚の様子から新設計ボディ骨格のしっかり感を体感することができ、それを手応えとして楽しむことさえできたのだ。
街中でのライドフィールはモデナに比べると硬さの目立つ場面が多かったものの、それも速度を上げていくにつれどんどんこなれていく。これはトロフェオに採用されたエアサスペンションシステムによる恩恵だ。ドライブモードを変えることで、たとえばコンフォートにすれば街中でも少しはストレスも減ってくれるけれど、それでもタイヤの形状や硬さが如実にドライバーへと伝わる。高速クルージングでコンフォートモードを選ぶと若干足元が緩んでバタつく。基本、GTモードが良いだろう。
450キロのロングドライブは疲れなし
もっともロングドライブの全体を通していえることは、日本の巡航速度領域(80〜120km/h)でも素晴らしい安定感を誇る“グラントゥーリズモ”であったということ。
筆者はグランツアーの得意そうなモデルを中心に年に50モデルほどピックアップして東京〜京都往復の長距離テストを行なっているが、マセラティのグラントゥーリズモと並ぶ、もしくはそれ以上のモデルを挙げてみろといわれたら、片手で事足りる。しかもほとんどが価格的にみてグラントゥーリズモ以上のモデルばかりだ。グラントゥーリズモのプライスタグもかなり高くなってはいるけれど!
軽くなった車体(なんとエンジン仕様とバッテリー&モーター仕様とで共有する)とシャシーの制御、V6になったことによる動的な重量バランスの最適化が効いていると思う。路面にピタリと張り付くような安定した走りを見せつつ、ステアリングフィールからは常に乗り手の自由に動くという感覚が発せられていた。クルマが道をよく知っているという褒め言葉は、まさにこんなクルマに使うことがふさわしい。
ときおり思い出したように右足を踏み込んでみる。普段はやけにおとなしいV6サウンドもなかなか迫力のある咆哮を奏でて眠気を吹き飛ばしてくれる。京都まで久しぶりにあっという間の5時間半、450kmだった。精神的にも早く到着する。もちろん肉体的な疲れもほとんど感じない。当代1級のグランドツーリングカーであることは間違いのないところ。
先代までのV8サウンドを恋しく思う人も少なくないだろう。しかも価格的には一気にスーパースポーツカーの仲間入りをした。円安とはいえ撮影車両で乗り出しおよそ4000万円とは! かえって「MC20」がバーゲンプライスに思えるほど。
これまでのマセラティユーザーには手を出しづらいモデルになってしまったけれど、性能・質感ともに大幅にアップしていることもまた事実である。新型グラントゥーリズモにはブランドクオリティをさらに引き上げるというマセラティの決意がこめられているといっていい。