アメリカから生み出されたエクストリームなスーパーカー
毎年8月の恒例行事となっている「モントレー・カーウィーク」でも最大規模のオークションとして、RMサザビーズ北米本社が2024年8月15日~17日に開催したクラシックカーオークション「Monterey 2024」では、「The Turbollection」と銘打たれた個人オーナー所有のスーパーカー/ハイパーカーたちが異彩を放っていました。今回はその出品車両のなかから特に話題を呼んだ、4台の「ヴェクター」の中から2台ピックアップしてお伝えします。
アメリカ流儀のスーパーカーを目指したヴェクターとは?
ヴェクターの創業者ジェラルド・ヴィーゲル(ヴィーガートとする文献もあり)は、「4輪の戦闘機」を作るという大胆な計画を掲げ、ハンドメイドのスーパーカーに航空宇宙技術をふんだんに取り入れただけでなく、ウェストコーストの個性にデトロイトのノウハウ、そしてヨーロッパの影響を融合させた独特のスタイルを確立しようとした。
ロサンゼルスのヴェニス地区にある小さな倉庫で、ヴィーゲルは1970年代前半から「W2」のプロトタイプを構想。彼の描いた直線的なボディラインは、傾斜したボンネットから急角度のフロントガラスに合流するという、きわめてアグレッシブなものだった。
ゼネラルモーターズ製の350立方インチ(約5.7L)V8ツインターボと3速オートマチックを搭載したW2は、1976年のロサンゼルス・モーターショーでモックアップのプロトタイプとしてデビューし、1978年には実走可能な試作車が発表された。
ところが、生産資金の調達や法規の問題解決も難航を極め、W2は生産にこぎつけることなく終わり、W2の正式発表から10年後の1988年、「ヴェクター・エアロモーティブ」社によって発表されたのが「W8 ツインターボ」である。
しかしヴェクター期待のW8もまた生産化に難航し、結局デリバリーは1990年から。それでも20台近い(19台説が濃厚)W8が販売され、テニス選手のアンドレア・アガシのようなセレブリティを魅了したとのことである。
ヨーロッパの伝統にのっとり手作業で製造されたW8 ツインターボは、その名のとおり6Lの排気量から625psを発生するV8ツインターボエンジンを搭載していた。ゼネラルモーターズ(GM)社3速ATとの組み合わせで、時速60マイル(約97km/h)まで4秒強という当時としては驚異的な加速性能を獲得。ヴェクター首脳陣が想定ライバルと見なしていたフェラーリ「テスタロッサ」、ランボルギーニ「カウンタック」などを凌ぐ、1/4マイル(約0-400m)加速タイム12秒台を記録した。
流麗で有機的な美しさの両立を目指したWX-3
W8 ツインターボが一定の評価を得たと判断したヴェクターは、1991年から次期モデルの開発に着手。その後、1992年のジュネーヴ・ショーにて「アヴテック WX-3」プロトタイプを発表した。戦闘機にインスパイアされたW8のデザインから進化したWX-3クーペは、それまでと変わらず航空宇宙産業の技術を多用しながらも、流麗で有機的な美しさの両立を目指したとされる。
翌年の同じジュネーヴ・ショーでは、アヴテック WX-3クーペにくわえ、WX-3R ロードスターという「サプライズ」を携えてブースを構えることになる。
双方ともボンネットの下には、オールアルミの「ローデック」社製V型8気筒ツインターボエンジンと、大幅に改良されたGM製「ターボハイドラマチック425」トランスミッションを搭載。時速200マイル(約320km/h)をはるかに超えるスピードを獲得し、とくに後者のロードスターは当時の世界最速オープンスポーツを標榜していた。
マーケットの評価はいかに?
2024年8月に開催されたRMサザビーズ「Monterey 2024」オークションには、ヴェクターの波乱万丈な歴史を彩る2台のプロトタイプと2台の生産モデル、合わせて4台が出品された。
1991 Vector W8 Twin Turbo
ヴェクター初の生産モデルであるW8 ツインターボは17台が生産されたといわれているが、オークション出品車はそのうちの1台。パープルのボディにブラックのオールレザー・トリムに仕上げられた唯一の個体とされ、新車として購入された際の請求書や通信記録など、詳細な資料が揃っている
2023年、ヴェクター・オートモーティブ社の元エンジニアリング主任、デビッド・コストカ氏が、総合的な整備を施したとのことである。
RMサザビーズと「The Turbollection」の協議のもと、80万ドル~100万ドル(邦貨換算約1億1500万円~約1億4400万円)のエスティメート(推定落札価格)が設定されたが、競売では落札に至らず。しかしそののち、営業部門を介して販売されたようである。
1993 Vector Avtech WX-3R Prototype
オリジナルのツインターボ、7L、オールアルミ製V型8気筒エンジンを搭載した「アヴテック WX-3R」は1992年および1993年のジュネーヴ・ショーに出展されたプロトタイプのみに終わったことから、この個体は現存する唯一のWX-3Rということになる。
ヴェクター創業者のジェラルド・ヴィーゲル氏が2019年まで所有し、現在新車からの走行距離は2625マイル(約4200km)未満。2019年から2021年にかけて実施された約30万ドルのレストア作業の恩恵を受けているとのことである。
130万ドル~150万ドル(邦貨換算約1億8700万円~約2億1600万円)のエスティメートが設定されながらも、競売ではリザーヴ(最低落札価格)に届かず、「Not Sold(流札)」に終わった。