特別オーダーの超高級車から、量産モデルのバリエーションモデルに変容
消えかかろうとしていたシューティングブレークの灯火が復活したのは、1980年代初頭のこと。ジャガー「Dタイプ」のレプリカ製作などで定評のあった「リンクス(Lynx)」社が、当時のジャガー「XJ-S」のテールを改装した「リンクス イヴェンター」が、その功労者となった。オリジナルのクーペをしのぐほどにスタイリッシュ、と評されたリンクス イヴェンターは当時としても非常に高価な価格設定がなされていたものの、前期・後期合わせて100台前後が製作され、DB5とともに、近代シューティングブレークの2大スターと称されているようだ。
ただ、そのあとの時代には超高級車のマーケットも新興国へと移行し、スポーティかつゴージャス、そして非常に高価なシューティングブレークをリクエストするような「コニサー(通人)」的オーダー主は、ブルネイや中東諸国の王家などに限定され、シューティングブレークの世界観はまたもやフェードアウトしようとしていた。
ちなみに、この時代に登場したホンダ3代目「アコード」に設定されていた「エアロデッキ」は、現在ではそのスタイリッシュさも相まって、シューティングブレークの仲間として認知する考え方もあるようだが、少なくともデビュー当時は、2BOXハッチバックの空力的効率向上を目指した進化形と見なされていたと記憶している。
そんな旧来のシューティングブレークのあり方が現在に至るものへと移行したのは、2010年代に入ってからのことである。まずは2011年に登場したフェラーリの2+2クーペ「FF」が、ルーフをリアエンドまで伸ばしたシューティングブレークスタイルとしたことを明示。この世界観の復活を世に告げた。そして2012年、メルセデス・ベンツの4ドアクーペ「CLS」クラスの2代目であるC218系に、そのクーペスタイルを昇華したワゴン、X218系「CLSシューティングブレーク」が追加されたことに端を発し、2010年代にシューティングブレークの新たなムーヴメントが巻き起こされるのだ。
20世紀後半には、DB5に端を発する「スタイリッシュなクーペをベースとするワゴン」がシューティングブレークの定義として一般化していたなか、メルセデスはCLSクラスが4ドアであってもクーペなのだから、そのワゴン版はシューティングブレーク、と定義。実用性本位な「Eクラス」のエステートワゴンとは異なる、新しい市場を開拓しようとしていた。このメルセデス・ベンツによる拡大解釈から、シューティングブレークは特別に裕福な顧客のオーダーによってビスポーク製作されるものから、量産モデルのボディバリエーションへと変容してゆく。
現代版シューティングブレークが相次いで登場
そののちポルシェは「パナメーラ」や「タイカン」に設定される「スポーツツーリスモ」でシューティングブレークに参入。メルセデスも自らコンパクトな「CLAシューティングブレーク」をCLSの妹分として発売した。さらに2020年代を迎えても、フォルクスワーゲンが「アルテオン」にシューティングブレークを設定するなど、とくにドイツにおいては一大勢力を形成するまでに至った。
また、かつてのシューティングブレークの本家本元、英国のジャガーが送り出した初代・現行(すでに生産は終了)の「XFスポーツブレーク」も、この新世代シューティングブレークの方程式に準拠したものといえるだろう。
こうして新たな活路を見出したかに見えるシューティングブレークながら、昨今のSUVの爆発的な増殖によって、その前途には暗雲が垂れこめているかにも思われる。
クーペをワゴン化した現代版シューティングブレークとは逆に、もともとがワゴン由来だったSUVのテールを逆にクーペスタイルとしたモデルも、現代版シューティングブレークのパイオニアであるメルセデスを筆頭に、BMWやアウディ、あるいはルノーなどからも相次いで登場しており、シューティングブレークの未来をさらに混沌としたものにしているかに感じられるのである。