三菱といえば4WD性能の高さが代名詞
レーシングドライバーであり自動車評論家でもある木下隆之氏が、いま気になる「key word」から徒然なるままに語る「Key’s note」。今回のキーワードは「大幅改良した三菱アウトランダーPHEV」です。三菱といえば四輪駆動制御にこだわりがあり、世界ラリー選手権(WRC)をはじめ国内外のモータースポーツで輝かしい成績を残しています。高い4WD性能のほかに、今回の大幅改良したアウトランダーPHEVでは「音」にもこだわったとのこと。その秘密に迫ります。
自動車メーカー各社にはそれぞれ「個性」がある
世界のプレミアムメーカーは、それぞれの個性といえるような、他社を凌駕するアイデンティティを備えているものです。
BMWは駆けぬける歓びであり、アウディは先進のクワトロテクノロジー。ボルボは先進の安全性に一家言あります。プジョーはそのしなやかな走り味が猫足と呼ばれ賛辞されています。キャデラックは威風堂々でしょうか……。
日本メーカーに目を移してみても、個性がうかがえます。トヨタは低価格の大衆車が魅力のひとつです。日産はかつてBMWのように走りに個性がありましたが、最近はEVの日産になりつつあります。ホンダはモータースポーツでしょうか? それとも軽カーのホンダかもしれません。
では三菱のイメージはどうでしょう。個人的には、四輪駆動力制御のパイオニアなのですが、世界初の量産EVモデルを発売したこともあり、EVの三菱という印象も強いですね。
ですが三菱は新たなアイデンティを模索しています。なんと、「オーディオの三菱」になろうとしているようなのです。
ビッグマイナーチェンジを受けた新型三菱「アウトランダーPHEV」には、これまでのカーオーディオを凌駕するほど高性能なシステムが組み込まれています。その名は「ダイナミック・サウンド・ヤマハ・アルティメイト」です。
その名から想像できるように、三菱とヤマハ楽器がコラボしたシステムです。カーオーディオの常識を覆すほどの、徹底した作り込みには目を見張るものがあります。「アルティメイト」と「プレミアム」の2グレード展開しているのですが、最高機種は「アルティメイト」。たとえば中高音を担当するツイーターは、大型のマグネットを採用することで圧倒的な駆動力を誇ります。低中音域のウーファーには、通常の2倍近いボイスコイルを巻いており、3倍の駆動力を発揮するのだそうです。
とまあ、ここまでは想像の範疇なのですが、驚かされたのは、音響空間を整える細工を散りばめていること。スピーカーが埋め込まれているドアも補強しているのです。
上質サウンドのために徹底した改良を施す
「アルティメイト」仕様では、厚みが1.5倍のパネルを使用しているばかりか、補強パーツを大型化し、さらにはスポット溶接増しをしていのです。これまでもパネルの大型化やスポット増しは珍しくはありませんでしたが、それはサスペンション取り付け部であったり、ピラー部であったりと、操縦安定性を高める部位に限られてきました。自動車ですから、走りが最優先されるためです。ですが、アウトランダーの「アルティメイト」は、クルマをオーディオルームとして考えて、理想の空間を得ようとしているのです。そのためのスポット溶接であり、パネルの肉厚化なんです。
ドアの内張りを剥がすと、剥き出しの鉄板にはたくさんの穴が空いています。クルマの軽量化のためでもありますし、修理や組み立てる際の整備性を高めるためのサービスホールでもあります。スパナやハンマーを使いやすくするためですね。
ですが、こと音響空間と考えた場合、スピーカーの裏から不要な音漏れを招くため不必要なのです。それを防ぐためにサービスホールをカバーし、ドアそのものの振動を防ぐ制振材や補強材を組み込んでいるのです。
いやはや、そこまでやるかという意気込みですね。しかも、です。アウトランダーはクルマですから、走行中に音楽を聴くことも少なくありません。それへの備えも万全です。
走行中のロードノイズに対しては、その質に合わせて5段階の周波数に対して雑音を補正するのです。エアコンの送風音など、空調関係の雑音にも対応します。さらにはワイパーの作動音、あるいは雨粒がボディやガラスに当たる際の騒音に対しても補正するというのですから腰を抜かしかけます。
そもそもアウトランダーはPHEVですし、新型はEV時間を長くするための細工がされています。バッテリー容量も増強していますし、冷却性を高めてもいます。それによってエンジンが発電するシーンが少なくなったことで、車内が静かになったのです。オーディオルームとしては理想的ですね。
三菱がそこまでオーディオに力を入れたのは、「四輪駆動力制御の三菱」や「EVの三菱」だけではなく「オーディオの三菱」に昇華するための想いが込められているそうなのです。
「一番音がいいのは三菱だ」
そう評価されることを目指して開発されたのです。クルマにとってオーディオは、あくまで脇役であり主役にはなれない存在でした。ですがこれからは、クルマにとって欠かせない存在になるかもしれません。その頃には「オーディオの三菱」の名が世界に浸透していることでしょう。