山道で見る緊急退避所とは
山道の下り坂などで、たまに見かける「緊急退避所」という看板。そこにはたいていの場合、道路脇に砂などを盛り上げ、スロープ状の上り坂になっている場所があります。これは、クルマがブレーキトラブルを起こした際に使うものですが、最近はあまり使われていないとも聞きます。では実際に、どんなケースを想定して設置されたものなのでしょうか?
緊急退避所の目的
緊急退避所とは、文字通り、「緊急事態の際に退避する場所」のことだ。では、どういった緊急事態なのか。最近は、地震やゲリラ豪雨による水害などを思い浮かべやすい。またトイレを我慢することだって、人によっては緊急事態だ。
だがここでいう緊急とは、それらのいずれとも違う。正解は、「ブレーキが効かなくなった」状態のことだ。クルマがブレーキトラブルを起こし、減速ができなくなった際、大事故を防ぐために、そこに突入して停止するための設備が「緊急退避所」なのだ。
突っ込んだ先(緊急退避所)は前述の通り、上り勾配で砂なども敷き詰めている場所。それらの抵抗によって、ブレーキが故障したクルマの減速・停止をできるようにしているのだ。
もちろん、突っ込んだクルマはダメージを負うだろうし、乗員もケガする可能性はある。ただし、長い下り坂などで、減速や停止が不能だとすると、まさに暴走状態となる。高い速度のままクルマが進んでしまい、危険度はかなり増す。そのクルマはもちろん、周囲のクルマも巻き込まれるなどで、死亡事故すら起きかねないだろう。緊急退避所は、そうした最悪のケースを想定し、故障車が避難することで、被害を最小限に留める場所として設けられているのだ。
主なブレーキトラブル
では実際、山道の下り坂などではどんなブレーキトラブルが考えられるのか?
フェード現象
まずは「フェード現象」だ。これは、下り坂でフットブレーキを多用することで、ブレーキディスクとパッドが高温となり、摩擦力が低下し、徐々にブレーキの利きが悪くなる現象を指す。とくに、古い車種や商用車などに使われているドラムブレーキは、構造上ディスクブレーキより放熱性が悪く、よりフェードが起きやすいといわれている。
ペーパーロック現象
また、「ベーパーロック」も下り坂で起こりやすいブレーキトラブルのひとつだ。フェード現象と同じく、フットブレーキを多用することで起こるのだが、この場合は、ブレーキフルード(ブレーキ液)の沸騰により、気泡が発生することが要因だ。
ブレーキペダルを踏み込んだときの入力を、油圧により伝えるのがブレーキフルード(ブレーキ液)だが、ふわふわした気泡が発生すると、入力が伝わらず、ブレーキパッドを押さえるための力が伝わらなくなる。これにより踏んだブレーキペダルがフロアまでいってしまい、突然ブレーキが利かなくなってしまう現象が起こるのだ。
ブレーキトラブルを防ぐ方法
緊急退避所は、前述の通り、こうしたクルマのブレーキトラブルが発生した際の対策として設置されたものだ。とくに昔は大型トラックやダンプカーなどが過積載をして走っているケースも多かったようで、ブレーキに負担がかかりやすく、ブレーキトラブルによる事故も多発したことも設置の要因のようだ。
ただし、クルマのブレーキ性能が上がった現在では、あまり使われなくなったともいわれている。だが、何事も油断は禁物。とくに、長い下り坂でフットブレーキを多用するのは、ブレーキパッドの減りやブレーキフルード(ブレーキ液)の劣化を早めるということもある。幸い、その時には重大な故障にならなかったとしても、近い将来にトラブルや故障の要因となる可能性は十分にある。では、どうすべきか。
正解は教習所でも散々教わった「エンジンブレーキ」を使うこと。AT車では、「D-」や「B」レンジなど、アクセルを離したときの減速度を上げる(=エンジンブレーキを強く効かせる)モードにして走る。また、最近はパドルシフトを付けたクルマもあり、それで減速度を上げる(同様にエンジンブレーキが強く効く)のも手だ。もちろんMT車の場合は、坂道の勾配にもよるが、基本的により低いギアにして走る。
日頃の点検やメンテナンスを忘れずに
ちなみに、BEVやハイブリッド車もアクセルを離すとエンジンブレーキのように減速する。しかも、このときに、バッテリーに電力を充電する回生ブレーキも働くため、BEVでは電費、ハイブリッド車では燃費を向上させることもできる。
ほかにも、日頃の点検やメンテナンスはとても大切だ。ブレーキフルード(ブレーキ液)の量や劣化具合、パッドの残量、ローターの減り具合や傷などをチェックして、必要であれば交換したい。ブレーキ関連のパーツは、安全でスムーズにクルマを走らせるためには、かなり重要。まずは、できるだけ緊急事態が起こらないよう、くれぐれも日頃から注意したいものだ。