軸足はドライバーから開発者、そして経営者へ
キャロッセに入社してからJAF全日本ジムカーナ選手権で3回のチャンピオンを獲得している長瀬氏。競技から引退しようと思ったきっかけは?
「当時の社長・加勢から40歳になったら競技ばかりに入れ込んでないで、もう仕事せえよ、と言われたのがひとつのきっかけです。それで2000年までに引退しますか、と。90年代の途中から競技パーツだけではなく、いわゆるカスタマイズパーツが急速に伸びてきていたんです。サスキットとか車高調がこんなに売れる時代が来るとは思ってもいませんでしたね。
その加勢に言われて、初代オデッセイの車高を下げる車高調を作ったときに山ほど売れて……。まだそれほどワゴンが流行ってなかった90年代後半でした。自分たちは走るために車高調が必要だったわけで、ワゴンで車高調? こんなものを作ったって……と、当初は思いながら製品化したら、ヒット商品になったわけなんです。クルマ好きが何を欲しているのか、加勢には分かっていたんでしょうね、きっと」
「このように創業者である加勢のころからずっと、クルマ好きのためにいろいろなことをやっているのが弊社のベースになっています。もう今の若い社員は加勢を知らないかもしれません。しかし、『加勢イズム』は社内だけでなく社外からでも伝わってくるものなんです。それというのも弊社で働いていた仲間が、弊社を卒業して地方などで活躍しているんですね。そうした仲間たちがイベントなどの際には手伝ってくれるんです。ドリフトやラリーなどの競技イベントも、スタッフの半分以上は弊社を卒業して自分でショップを経営しているような仲間たちなんです。そうしたOBと若い社員が一緒に働くことで、『加勢イズム』は間違いなく受け継がれていると思うんですね。
また、モータースポーツに携わることは会社にとって非常に意義があります。もちろん製品開発という側面もありますが、人材育成という側面の方がいまは大きいですね。ひとりひとりのスキルの嵩上げにはもってこいなんです。たとえば今だと、メカニックがCADで図面を引いて3Dプリンターで出力して、ドリフトに使う部品を作っていたりするんですよ。現場ではもっと製品開発の時間を短縮しようとか、どうせ作るならカッコいいものを作ろうとか、切実な想いがあるんですけど、だからこそどんどん技術を吸収していってるんですね」
これからNAPACに求めるもの
最後にキャロッセが加盟しているNAPAC(一般社団法人 日本自動車用品・部品アフターマーケット振興会)の活動について、今後期待していることを伺った。
「どうしても法律やコンプライアンスなど、準じなければならない事が多いので、そうした情報の共有と、それをユーザーの皆さんに安心して使ってもらえると、いろいろな活動を通じて広めていけるようにしたいですね。
その一方で、コンプライアンスばかりを気にしていると、結果としてクオリティは高いけれど魅力が乏しい製品になってしまいがちなので、もっとNAPACの横のつながりで協業し合って、魅力ある製品をユーザーの皆さんに提供していければいいなと考えています。若い世代の人にも期待したいですね」
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キャロッセはラリードライバーであった加勢裕二氏が1977年に創業。現役ラリードライバーであった経験が、製品の開発・製造に活かされているのが特長である。ラリーは、メカニックが夜通し傷んだマシンを現場で整備しているというイメージがある。ドライバーの情報をすぐさま競技車にフィードバックして、次のレグに備えなければならない。きっとこうしたラリー現場での経験が、キャロッセの一貫した製品開発から設計・生産までのワークフローを現実のものとしてきたのは容易に想像がつく。自社内で完結しているため、コストも下げることができ、さらには製品化までの期間も短縮できる。
こうした『加勢イズム』は、長瀬氏にも当然ながら受け継がれている。ジムカーナでドライバーとして「どうやったら速く走れるのか」をドライビング技術とマシンのセットアップの両方からアプローチしていた長瀬氏。それは、「どうしてこのクルマが高評価を得ているのだろう」というクルマ好きとしての素朴な疑問の解決として、自らクルマを所有して肌感覚で理解しようとしている姿勢とも通じるものがある。
「好きこそものの上手なれ」とはよくいわれることだが、まさに長瀬氏、そしてキャロッセそのものにもピタリと当てはまる。
「高校を卒業してから整備士になって、ずっとこういう仕事をしています。クルマ以外の仕事をやったことがないんです」
と、謙遜気味に語る長瀬氏。しかし、これこそ「好きこそものの上手なれ」を自らの半生を通して実践してきた、重みのある言葉にほかならない。そして、現場と開発、さらにはユーザーと開発の距離が近いということが、モノづくりにおいて強みであることがよく伝わった今回のインタビューであった。