トリブート・アバルトを標榜する、極上のレストモッド
今回の「旧車ソムリエ」取材にあたってご提供いただいたフィアット127は、昨今のクラシックカー界ではトレンドのひとつとなっている「レストモッド」車。フィアット ヌォーヴァ500をはじめ、フィアットおよびアバルトについては日本最高のオーソリティである「チンクエチェント博物館」が、このほどイタリアから直輸入したばかりのものである。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、同博物館ではヌォーヴァ500をベースとするレストモッドBEV「フィアット 500ev」を自らプロデュース。その製作をクラシック・フィアット専門のトリノのカロッツェリア「オフィッチーネ・ジェンティーレ(通称OG)」に委託しているのだが、この127はOGの社長がご自身のためにコツコツと製作していたものとのこと。その製作過程を見ていたチンクエチェント博物館の伊藤代表がすっかり気に入ってしまい、ひたすら頼み込んで譲渡してもらったとのことである。
そしてクラシックから現代のモデルに至るまで、フィアットとアバルトの魅力を知り尽くしたチンクエチェント博物館では、メーカー非公認ながら「127 トリブート・アバルト」というウィットに富んだニックネームを奉っている。
その名が示すようにアウトビアンキ「A112 アバルト 70 HP」用のアバルト製エンジンとトランスミッションをコンバート。シリンダーヘッドやピストン、コンロッドにもチューニングを施している。またカムシャフトもより高速型のものに取り換えたほか、キャブレターはスタンダードのA112アバルト用よりも大径な、アルファ ロメオ「ジュリア」などにも使用されるウェーバー40DC0Eに換装。さらに初代「プント」(1993~1999年)用のフロントブレーキに「セイチェント」(1998~2010年)用のリアブレーキ、そしてブレーキブースターもツインにするなど、かなり高度なチューニングが施されている。
レストモッド旧車の魅力を鮮烈に体現
ステアリングコラムの右脇には、いかにもレストモッド的というべきか、現代車のような「START/OFF」ボタンが設けられており、まずはキーフォブをセンターコンソールの所定の位置に置き、ボタンを1回押すとイグニッションが通電。次に2回目を押すと燃料ポンプが作動。そして3回目を押すと、シングルとはいえ大径のウェーバー社製キャブレターで燃料を送り込んでいるとは思えないくらいに短いクランキングとともに「ボォンッ!」とエンジンが始動し、安定したアイドリングに入る。
もとよりアウトビアンキA112アバルト用の4気筒OHVエンジンは、サウンド&レスポンスともに極上でトルクの乗りも気持ちよく、まさしく「ドライビングプレジャー発生マシン」なのだが、さらなるファインチューンが施されたこの個体のエンジンは1枚上。電光石火のレスポンスと吹け上がりで、軽量ボディを胸のすくような勢いで加速させる。
でも、このエンジンで筆者をもっとも魅了した要素はサウンドである。低中速域ではウェーバーキャブの吸気音が目立つが、4000rpmを超えたあたりから、がぜん澄んだ咆哮へと変わり、まるで空冷時代の4気筒リッターバイクのような「クォーンッ!」というエキゾーストノートに全身が包まれる。これを快感という以外に、なんと表現できようか……!
また185/45R15という、いかにも今どき風な超低扁平タイヤを履いているにもかかわらず、クルマが少しでも動いていればパワステつき? と思わせるほどに軽くてクイックなハンドリングも印象的。ヒラリヒラリとコーナーを駆けるナチュラルな俊敏性では、細身のタイヤを履いたアウトビアンキA112アバルトに若干ながら及ばない気もする一方で、この「グイッ」と向きを変える感じも、それはそれでまた魅力的。絶対的なグリップの強さも相まって、よりモダンにも感じられた。
旧き良きイタリアン「ボーイズレーサー」の魅力を、世代をまたいだテクノロジーとセンスで磨き上げたこのクルマは、小さくてプリミティブであるがゆえに「レストモッド」という新しいジャンルに属する旧車の魅力を、より鮮烈に体現していると実感したのである。
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