イタリアンデザイン×コーチワークの変わり種BMW
アメリカの恒例イベント集合体「モントレー・カーウィーク」最大規模のオークションとして、RMサザビーズ北米本社が8月15日~17日にモントレー市内で開いた「Monterey 2024」では、「ミリオンダラー(100万ドル)」超えの超高級クラシックカーやスーパーカー/ハイパーカーたちが続々と出品・落札されるなか、ちょっとクセ強めなレア車たちも異彩を放っていたようです。今回はそんな希少車のひとつ、BMW「1600GT」をご紹介します。
独伊混血の美しきクーペ、BMW1600GTとは?
BMW「1600GT」は、BMWの歴史においてもかなり異端の存在と言えるだろう。
もともとは、同じバイエルン州に本拠を置き、1950年代にはマイクロカー「ゴッゴモビル」で成功を収めた自動車メーカー「ハンス・グラース」社から、1964年にグラース「1300GT」としてデビュー。端正で美しいボディデザインは、1930年代から自動車スタイリストとして活躍し、ボルボ「P1800」やマセラティ「ミストラル」などの傑作を発表していたピエトロ・フルアの手がけたものである。
フルアはシリーズ生産に足るファシリティを持たないことから、ボディの架装はトリノ近郊キヴァッソに本拠を置くカロッツェリア「マッジョーラ」社に委託され、最終的なアセンブルはグラース社のディンゴルフィンク工場で行うという複雑な工程から、生産コストが嵩んでしまうという弱点もあったが、1965年には排気量を拡大した「1700GT」も追加。さらに少数ながら、コンバーチブル版も製作された。
ところが、1966年にハンス・グラース社は経営破綻。BMWに吸収合併された結果として誕生したのが、グラース1300/1700GTにBMWの至宝1.6L直列4気筒SOHCエンジンを組み合わせた折衷版、BMW「1600GT」だったのだ。
クーペの生産期間はわずか14カ月足らずで終了
「BMW化」を果たすべく、フルアのデザインはBMWの特徴であるキドニーグリルやバッジ類、コンビネーション式の丸型テールランプなどで軽くアップデートされ、グラース時代には6Vだったという電装は12Vに変更されたほか、BMW「ノイエ・クラッセ」譲りのセミ・トレーリングアーム式独立リアサスペンション、4速トランスミッション、103psを発生する2基のツインチョークキャブレターつき直列4気筒SOHCエンジンが新たに採用された。
こうして誕生した1600GTは、グラース時代に比べてパワーもハンドリングも向上したものの、コスト高が販売価格にも反映したせいか、売れ行きは比較的芳しくなかった。
また、BMWオリジナルのコンパクトな2ドア・スポーツセダン、現在の「3シリーズ」の祖先である「1600-2」との競合を危惧したBMW経営陣の判断により、素晴らしいプロポーションのファストバック型クーペボディを持つこのクーペの生産期間はわずか14カ月足らず、1968年をもって終わりを告げることになる。
その間、BMWとなっても生産を引き受けていたディンゴルフィンク工場から出荷されたBMW 1600GTは、わずか1259台(ほかに諸説あり)のみ。くわえて、新車当時アメリカ合衆国へ正規導入されることはなく、そののちクラシックカーとしてコレクターやエンスージアストによって輸入されることもほとんどなかったという。
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