あまりの洗練ぶりに一抹の寂しさはあるけれど、その進化は本物
話題を試乗レポートへと移す前に、まずは前提としてお話ししておきたいのだが、筆者は社会人としてのキャリアの端緒からベントレーとともにあり、ベントレーというブランドには格別の想いを抱いて30余年を過ごしてきた。また、ロールス・ロイス/ベントレー専門の私設博物館でキュレーションを20年以上にわたって務めたことから、旧くは1921年式「3 Litre」まで遡るほぼ全世代のベントレーを運転した経験もあり、その骨太で武骨な乗り味を深く愛してきたつもりである。
でも、それだけに電動化の洗礼を受けたベントレー、新型コンチネンタルGTに対しては期待よりは不安のほうが大きい、というのが正直な心境であったのだが、そんな筆者の予感は「ほぼ」杞憂に終わったといえるだろう。
今回のサーキット試乗会では、3台のコンチネンタルGTスピードと1台のコンチネンタルGTCスピードが用意されたなか、筆者にステアリングを預けられたのはシルバーのGTCスピードである。
「START & STOP」ボタンを押すと、まずは電動だけで走行する「EV DRIVE」。アクセルペダルを踏むと、音もなくスルスルッと走り出す。スロットルを深く開けることなく、ジワッと踏んでいれば110km/hくらいまではエンジンを始動させることもなく、まったくもってスムーズな走り。
サーキット設計の大家、ヘルマン・ティルケ氏が設計したというThe Magarigawa Clubのコースには、あの米国「ラグナ・セカ」サーキットを忠実に再現した「コークスクリュー」コーナーが、しかも登り/降りともに設定されているのだが、新型コンチネンタルGTCは「EV DRIVE」のまま、17度という急勾配を無音でグイグイと登ってゆく。さらに、降りでも非常にスムーズに回生ブレーキが介入してくるので、急旋回しつつのダウンヒルであっても、とてもリラックスしてコーナーリングを満喫できる。
V8ツインターボの咆哮は角が取れ、澄んだサウンドへ
でもコンチネンタルGTCがその真の姿を見せるのは、やはりV8ツインターボエンジンに「火が入って」から、といわねばなるまい。
ようやく聴こえてきたエキゾーストノートは、2代目から設定されたV8版よりも若干「角が取れ」、まるで木管楽器的のファゴットのような澄んだサウンドへと変化したようにも感じられるものの、基本は野太いベントレーV8の咆哮。ただし絶対的な音量は抑えられているので、発進直後のEVモードからの切り替わりもかなり自然なものである。
筆者は個人的な嗜好として、とくに大出力型BEVの加速感が直線的で無機質なものと感じられ、あまり好きではないのだが、いっぽうこちらのPHEVシステムはICEと電動モーターの連結制御が巧みなのか、二次曲線的に盛り上がる加速感がドラマティックなものとして伝わってくる。
そして、前49:後51という重量配分によってボディコントロールが容易になったせいか、あるいはトルクベクタリングや48Vアンチロールバーが効率よく機能しているせいなのかは不明ながら、筆者ごときのドライビングスキルで走行できる速度域では、ヘアピンから高速コーナーまでカーブの曲率を問わず、弱めのアンダーステアを保ったまま駆け抜けることができる。
コンチネンタルGTスピードの2459kgに対して2636kg(ともに本国仕様のメーカー公表値)と180kg近くも重いせいか、とくに登りでは前方を走るGTスピード勢に置いて行かれてしまいがちになる(筆者の腕のせいもあり……)が、それでも走行性能の高さやハンドリングマナーは先代とは一線を画すものと認めねばならないようだ。
初代や2代目の、強いアンダーステアを4WDのトラクションと強大なトルクでねじ伏せるような走りも、個人的に第二次大戦前「W.O.」時代に代表される古き良き時代のベントレーを連想させるようで大好きだった筆者からすれば一抹の寂しさもあるものの、客観的にみる洗練度の高さでいえば、やはり新型に軍配を上げざるを得ない。
さらに、乗り手に優しいフールプルーフ性能の驚異的な高さも相まって、なかなかの難コースとして知られつつある「The Magarigawa Club」サーキットを試乗コースとして選んだ、ベントレーの自信のほどが確認できたのである。
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ところで、前述のグループインタビューにて、筆者はベントレー本社から来た2人の英国人スタッフ氏に、新型コンチネンタルGTシリーズは現代的な「スーパーラグジュアリー」なのか、あるいは1930年代「ダービー・ベントレー」時代のキャッチフレーズ「サイレントスポーツカー」の高度な進化形なのかを尋ねてみたところ、彼らからは「サイレントスーパーカー」という言葉が返ってきた。
それは、電動化されてもなお、ベントレーであり続けようとする姿勢の表れなのだろう。