カットする理由はない……?
新品のタイヤにはメーカーを問わず、無数の「ヒゲ」が生えています。場所はトレッドやショルダーなどの表面で、長さはメーカーや銘柄に関係なく1cmほどです。正式な名称は吐出を意味する「スピュー」のようですが、はたしてどんな目的で設けられているのかご存知でしょうか。また多くの人は気にせず使い続けると思いますが、美観のために切断してしまっても問題がないのか解説をしていきます。
金型の密着性を高めるために「スピュー」ができる
まず「スピュー」がどのようにして作られるかを説明したい。タイヤはさまざまな原料を組み合わせて作り上げた「混合ゴム」と、インナーライナーやサイドウォールなど多くの部品で構成される。その状態を「生タイヤ」または「グリーンタイヤ」と呼び、金型に入れて高い熱と強い圧力をかけながら成形していく。
生タイヤと金型の密着性を高めるには間に入った空気を除去する必要があり、あらかじめ金型には空気を逃すための小さな穴がたくさん開いているのだ。この穴に空気と一緒に溶けたゴムが流れ込み、冷えて固まることでスピューが形成される。
ちなみに金型から取り出された段階の長さは3cmほどあり、出荷前に専用のカッターで短くカットされている。つまりスピューとはタイヤを製造する過程で作られる副産物で、グリップや耐摩耗性といった性能に影響を与えるモノではない。
トレッド面に生えたスピューでロードノイズが大きくなるくらいはあり得るかもしれないが、神経質な人じゃなければ気付かないレベルだし大半は「皮剥き」の間に削れてしまうはずだ。
よほど見た目が気になればニッパーなどで切っても問題ないが、根本のギリギリからカットしてタイヤに傷を付けるほうが心配だ。ショーに展示されている車両がスピューを切ったタイヤを履いているのを見て、何かしら性能面でのメリットがあるんだろうと思った人もいるかもしれない。
しかしカットする理由は単に見た目の話で、メリットもデメリットも皆無といってよく、空気圧などに気を遣うほうがよほど建設的だ。なおスピューはスタッドレスのような表面に細かい溝があるタイヤほど多いが、近年では金型が進化しスピューのできないタイヤも流通しているとのこと。スピューが「懐かしのクルマ用語」になる日はそう遠くないかもしれない⁉︎