高騰中のエボリューションII、オークションに登場
北米カリフォルニア州にて毎年夏の恒例となっているイベント集合体「モントレー・カーウィーク」においてRMサザビーズ北米本社が2024年8月15日~17日開いた世界最大規模のクラシックカーオークション「Monterey 2024」では、ヤングタイマー相場を象徴するモデル、メルセデス・ベンツ「190E 2.5-16 エボリューションII」が出品されました。今回はそのあらましと注目のオークション結果について、お伝えいたします。
サーキットでの戦いのため、名門たちがこぞって大改造
「メルセデス・ベンツ」と「コスワース・エンジニアリング」、「AMG」の3社が共同開発した1990年型「190E 2.5-16 エボリューションII」は、その突拍子もないほどに攻撃的な外見の印象とは裏腹に、これまでに作られたスポーツセダンの中でももっとも洗練され、ダイレクトに魅力を訴えてくるモデルのひとつ。そしてなにより、モータースポーツの坩堝(るつぼ)のなかで鍛え上げられたマスターピースである。
生来のレゾン・デートルであるサーキットでは、BMW「M3」をはじめとする国内のライバルをことごとく圧倒し、1991年と1992年の2シーズン連続でAMGメルセデスの「ドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)」のコンストラクターズタイトルを獲得した。
コスワースが開発したエボリューションIIのエンジンは、ショートストローク2.5Lの4気筒DOHCで、ホモロゲート用のロードバージョンでも235psを発揮する。16バルブのヘッド、エンジンのマネージメントシステム、5速「ドッグレッグ」トランスミッションはすべて、エンジンのレッドラインである7800rpmに迫る高回転域で、気迫に満ちたテクニカルなドライビングを可能にするよう補完的に構成されたものだった。
BMWがリアウイングについて抗議をした逸話も
さらには、当時としては大径の17インチホイールに収められたブレンボ製4ピストンブレーキキャリパー、セルフレベリング式サスペンションにくわえて、タワー型リアスポイラー、堂々としたフェンダーフレア、アジャスタブル式フロントスプリッターなどで構成されるアグレッシブなエアロキットを装着したボディワークが、このモデルのシャシーをさらに強化していた。
このエアロキットは非常に効果的であることが証明され、ほかのDTMチームが慌てて抗議したものの、レギュレーションには合致しているため効果はなかった。
BMWの研究責任者であるヴォルフガング・ライツレは、「あのリアウイングが機能部品として認められるというなら、風洞を設計し直さなければならないだろう」と、皮肉まじりに主張したと伝えられている。
エボリューションIIは、ホモロゲーションスペシャルとして登場したかたわら、発表されたときからロードカーとして愛用するエンスージアストたちをも魅了していた。
その血統とルックスがあまりにも魅力的であったため、メルセデス・ベンツのディーラーのなかには、当時のレース界における活躍が終わったあとにも、自社ショールームにそのマシンを展示しているところが少なくなかったというのだ。
あともうひと息で5000万円!
「Monterey 2024」オークションに出品されたメルセデス・ベンツ 190E 2.5-16 エボリューションⅡは、スイスに向けて輸出され、1990年7月にマッジョーレ湖近くのゴルドラのディーラーに新車として納車。そののち、1991年4月1日にファーストオーナーに引き渡され、ルガーノで登録された。
その後10年間、オリジナル・オーナーの年間走行距離は4000kmにも満たなかったというが、2002年にはオランダのプライベート・コレクションに加わり、その後16年間はそこに留まったとされている。
2016年6月、このエボIIはシュトゥットガルト北部のプレイデルスハイムを拠点とし、クラシック・メルセデスのスペシャリストとしては全世界に知られる「メカトロニック(Mechatronik)」社によって購入され、車両全体に及ぶメカニカルパートの見直しや、OEM部品を使用した包括的な整備を受けたうえで、新たにテュフ認証が与えられた。
そして2018年11月、このエボリューションIIはアメリカのメルセデス・ベンツ・ディーラーが所有する戦後メルセデス・ベンツの卓越したコレクションに加わることになった。
強気な推定落札価格に驚愕したが……
現在でも展示されているこのクルマは、カタログ掲載時の走行距離が3万9350kmであり、全体を通して素晴らしい保存状態を保っていると主張されていた。
メルセデス・ベンツが誇るW201世代セダンの究極の発展形である190E 2.5-16 エボリューションIIは、レーストラックにおける目覚しい成功に驚異的なルックス、そしてダイレクトなドライビングダイナミクスにより、今もなお愛好家の垂涎の的となっているのはご存知のとおりである。
とくに昨今では、クラシックカー市場においてもライバルとなってきたBMW M3「スポーツ エボリューション」を大きく凌駕する相場価格を形成していることに注目されているファンも、決して少なくないものと思われる。
そんな市況のもとRMサザビーズ北米本社は現オーナーとの協議を経て、32万5000ドル~37万5000ドル(邦貨換算約4875万円〜5625万円)という、近年のエボIIのマーケット相場を鑑みてもけっこう強気なエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
そして、モントレー市内の大型コンベンションセンターで挙行された競売では、エスティメートの想定内に収まる32万9500ドルで、無事落札されるに至った。
出品者サイドからしてみれば、よりエスティメート上限に近いハンマープライスが期待されたかもしれないが、それでも現在のレートで日本円に換算すれば約4940万円というのは、なかなかの金額だったかに思われたのである。