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5億円オーバーだったフェラーリ「512TR スパイダー」は、1年と経たずに9000万円も値下がり!? カタログモデルではないレアすぎる跳ね馬の正体とは?

5億円オーバーだったフェラーリ「512TR スパイダー」は、1年と経たずに9000万円も値下がり!? カタログモデルではないレアすぎる跳ね馬の正体とは?

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TEXT: 武田公実(TAKEDA Hiromi)  PHOTO: 2024 Courtesy of RM Sotheby's

再びのオークション出品は、再塗装と内装リフレッシュの後

この夏、RMサザビーズ「Monterey 2024」オークションに出品された「ブル・コバルト(コバルトブルー)」のフェラーリ512TRスパイダーは、シンガポールのプライベートコレクション「The Factory Fresh Collection」主宰のアルフレッド・タン氏自身の主導により、フェラーリ公認のもと2台ないしは3台のみが製作された512TRスパイダーの1台とのこと。蛇足ながら、今回RMサザビーズ北米本社のヒストリアンは、2台製作説をとったようだ。

アルフレッド・タン氏はシンガポールでフェラーリの正規ディーラー「ホンセ・モーターズ」を長年経営してきたビジネスマンとして、あるいは個人としても熱心なフェラーリ愛好家として、フェラーリおよびピニンファリーナとは太いコネクションを持つかたわら、ブルネイ王家とも密接なかかわりがあり、これまで王家が特注したスペシャル・フェラーリの多くに関与。1990年には、「テスタロッサ・スパイダー」プロジェクトの立ち上げと運営にも携わっていた。

そして1993年、タン氏の求めに応じたフェラーリとピニンファリーナは2台の512TRスパイダーを製作したものの、そのうちの1台、ブル・コバルトの塗装を施されてラインオフした唯一の512TRスパイダーであるシャシーナンバー「97310」はブルネイ王室に引き渡されることなく、そののち30年にわたってタン氏の手元に残された。

ところが、フェラーリ512TRスパイダーの引き渡しを受けたタン氏は、自身が引き取ったシャシーナンバー97310にはほとんど乗ることなく、つねにホンセ・モーターズのショールーム内かドライストレージ内で保管。走っている姿が目撃されたのは、1997年1月にローマで開催されたフェラーリ50周年記念式典にタン氏がこの512TRスパイダーを出展し、その際に当時の「スクーデリア・フェラーリ」正パイロット、ジャンニ・モルビデッリがタンの息子エドワードと一緒に市内をパレードしたことくらいだったといわれている。

その結果、2023年11月に同じくRMサザビーズ「LONDON」オークションに出品された際にオドメーターが示していた走行距離は、わずか570kmに過ぎなかったという。

500時間以上を費やし内外装をキレイにした

そしてこのときの競売では、もとより強気と目されていた210万ポンド〜270万ポンド(邦貨換算約3億9270万円〜5億490万円)というエスティメート(推定落札価格)をさらに上回る280万ポンド。当時の日本円換算では、5億1400万円で落札……! という局面に至るまでのストーリーは、2023年のAMWオークションレビュー「LONDON」オークション篇でもお話ししたとおりである。

今回は、その後日談について。ロンドンで落札されたシャシーナンバー97310は、そのままRMサザビーズの修復部門「RMオートレストレーションズ」に引き渡され、6万5000ドル以上を投じてコスメティック関係の手直しが施されることになる。

この作業後に提出された請求書は、もとより新車に近い状態にあった512TRスパイダーの内外装を完璧なコンディションへと戻すために、のべ500時間以上が費やされたことを示しており、オリジナルのブル・コバルトの全面的な再仕上げを行ったうえで、「ブル・スクーロ(濃紺)」の新品カーペットに張り替え。同じくブル・スクーロの電動ソフトトップも新調された。

いっぽう、走行距離についてはLONDONオークション時からほとんど自走の機会はなかったようで、今回の「Monterey」オークション公式カタログ作成時点でも、オドメーターが示しているのは依然として575km未満。つまり、LONDONオークションでの落札以来、まだ5km程度しか走行していないことになる。

事実上の新車状態となった、この超レアなフェラーリ512TRに対して、RMサザビーズ北米本社は270万ドル(邦貨換算約4億400万円)〜350万ドル(邦貨換算約5億2300万円)というエスティメートを設定した。
ところが、ところが、モントレー市内の大型コンベンションセンターで挙行された競売では、LONDONオークション出品時より明らかにビッド(入札)の伸びが鈍く、結局締め切りまでに出品者サイドが設定した「リザーヴ(最低落札価格)」には届かないまま、流札となってしまったのである。

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  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 武田公実(TAKEDA Hiromi)
  • 1967年生まれ。かつてロールス・ロイス/ベントレー、フェラーリの日本総代理店だったコーンズ&カンパニー・リミテッド(現コーンズ・モーターズ)で営業・広報を務めたのちイタリアに渡る。帰国後は旧ブガッティ社日本事務所、都内のクラシックカー専門店などでの勤務を経て、2001年以降は自動車ライターおよび翻訳者として活動中。また「東京コンクール・デレガンス」「浅間ヒルクライム」などの自動車イベントでも立ち上げの段階から関与したほか、自動車博物館「ワクイミュージアム(埼玉県加須市)」では2008年の開館からキュレーションを担当している。
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