オンリーワンの魅力を放っている1台
優等生的なクルマが多いトヨタ車の中にあって、際立ったキャラクターを持つモデルとして知られるのが、1990年にリリースされた「セラ」でその源流とも言えるのが1987年の東京モーターショーに出展されたコンセプトカーの「AXV-II」。当時のトヨタ若手デザイナーにデザインさせたとされる自由度の高いデザインが最大の特徴でした。
グラッシーキャビンが特徴的だった
コンセプトカー「AXV-II」は、あくまでデザインスタディとして展示されたに過ぎなかったのだが、その反響は大きく、2年後の東京モーターショーでは各部をリファインし「セラ」という名前を与えられて再登場して市販化と相成った。「AXV-II」時代からすると前後のデザインは大きく変更されているものの、特徴的なガルウイングドアやキャノピー形状をより印象付けるリアハッチなどは踏襲されており、じつはAXV-IIのときから高い完成度を誇っていたともいえるかもしれない。
そんなセラはライトプレーンのキャノピーを思わせるグラッシーキャビンが最大の特徴だ。日本では初となるドア上部までガラスが回り込む形状に加え、窓枠を廃して全面ガラス張りとしたリアパノラミックハッチを採用することで、まるでオープンカーのような開放感を味わうことができるものとなっていた。
このドアには気温の変化に左右されることなく、ほぼ同じ力で開閉ができるように「ドア操作力温度補償ステー」が組み込まれ、グラッシーなキャビンをつねに快適な温度に保つためにオートエアコンが標準装備となるなどの心遣いはまさにトヨタ品質と言えるだろう。
ちなみにこのドア、ルーフ前端中央付近とAピラー根元近くの2点を支点として、斜め前上方に開くことから近年ではバタフライドアと呼称されることが多いが、当時のカタログやメーカーのリリースにもガルウイングドアと記載されている点には留意したいところだ。
細部のこだわりっぷりにも注目
パワートレインには当時の「スターレット」系のプラットホームを使用しつつも、エンジンはスターレットよりも排気量の大きな1.5Lエンジンを搭載。
足まわりもスターレットよりもトレッド幅を拡大し専用チューニングを実施したほか、ABS装着車はリアブレーキもディスク化(スターレットはターボのみリアディスク)して走行性能を全体的に向上させていた。
またその特徴的なエクステリアデザインに負けないように、セラ専用デザインのアルミホイールや樹脂フルキャップを用意。さらには、純正装着タイヤには外側の接地面積を多くした非対称パターンと濡れた路面での排水性に優れた方向性パターンを同時に採用した「NAGI」と名付けられた専用タイヤを開発・装着するこだわりぶりをみせていたのだ。
そのこだわりぶりはインテリアでも同様で、スターレットの面影は皆無のインパネやメーターのデザインはもちろん、楽器のビオラのような形状のビオラフォルムシートを採用するなど、オープンカーと同じくインテリアも見られるものとしてデザインされていた。
ここまで専用デザインなどを採用しながらも、デビュー時の価格は160万円からと今考えればバーゲンセールとも言えるリーズナブルさとなっていたセラは、いまだに換えの効かないオンリーワンの魅力を放っている。